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14年前の朝日小学生新聞に、1年生の短い詩がある。〈ようちえん/にゅうえんしきで/ぼくがなき/そつえんしきで/ママがなく〉秋元健太。短歌にも足らない30字で、自身の成長と親の愛を余すところがない▼卒園式で父母を泣かせてきたのが「思い出のアルバム」だ。〈いつのことだか/おもいだしてごらん……〉。顔中を口にして歌う子に苦労を重ね、母親や先生方の涙腺は緩む。NHK「みんなのうた」で全国に広まった80年代には、9割の卒園式で歌われたという▼東京都調布市の常楽院に歌碑がある。元住職で、幼稚園を開いていた本多鉄麿が作曲した縁だ。作詞は、墨田区で保育園長をしていた増子とし。こちらはクリスチャンだった▼珠玉の合作が生まれたのは1957年。おそらくは保育研究会の場で「異教」が出会い、立場を超えて子どもの門出を祝いたいとの思いが結実した。四季の回想を連ねた詞は冬だけ二つある。お寺や神社系の園のため、クリスマスに触れないものを用意したと聞く▼半世紀前の歌づくりには、次代を担う子どもへの愛情がにじむ。いわば玄人の愛である。片や、親は育児の素人から危なげに出発し、わが子については誰よりも通じたプロになっていく。卒園式や卒業式は両親の成長の節目でもあろう▼泣き笑いを重ねて迎える親子のひと区切り、そして新たな旅立ち。薄桃色の日ざしの中で、それぞれの心のアルバムに育ちの跡が刻まれる。泣いてよし笑ってよしの集いによって、この国の春はほどよく厳かな、晴れの季節になる。