北朝鮮が韓国に対して盛んに硬軟入り交じる外交攻勢をかけている。韓国の経済協力や支援によって、混乱の度を増す一方の経済から脱却しようという狙いのようだが、強面(こわもて)が目に余る。
「三月から開城観光、四月からは金剛山観光の門を開く」
南北関係の窓口である北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会は、一方的に観光事業の再開を表明した。これらの事業は、二〇〇八年七月の金剛山での北朝鮮兵士による韓国人観光客射殺事件を機に中断されている。
韓国側は事件究明や身辺安全の保証を求めてきたが、北朝鮮は「解明済み」を繰り返し、今回は再開に応じないなら、関連合意や契約の破棄、韓国側の施設の凍結など「特段の措置」をとると強硬姿勢を示した。
揺さぶりで交渉を有利に進めるのは北朝鮮の常とう手段だが、これでは韓国も関係改善や経済支援には踏み出せないだろう。
昨年秋から北朝鮮は、観光以外にも首脳会談を模索し、開城工業団地での賃金・地代引き上げなどを繰り返し求めている。
その一方で、南北境界線近くの海域に射撃区域を設定して砲撃を行うなど、軍事緊張を高めるような動きも見せている。
こうした北朝鮮の硬軟の対韓攻勢の背景には焦りが見える。
核実験などによる国連の経済制裁に加え、昨年十一月からのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)は大失敗だったからだ。
経済統制の強化を狙ったが、超インフレを招き、物資の流通は激減した。通貨ウォンはドルや人民元に対し大幅に下落、中国からの日用品輸入が減り、人々の食糧や日常生活に大きな支障を来し不満が高まっている。
そこで目を付けたのが観光事業だ。一九九八年から始まり、入山料や参加費はドルで支払われ、北朝鮮にとっては手っ取り早い外貨稼ぎの手段だった。
しかし、韓国は観光だけでなく関係改善の大前提として「核放棄」を据え、慎重に対応している。
北朝鮮は中国に対してもできるだけ早い支援強化を要請したが、はかばかしい返事はなく、近く金正日総書記が訪中という情報も飛び交う。
北朝鮮の孤立の原因は、周辺国がかねて求める六カ国協議−核放棄を拒否していることにある。
この認識を横に置いたまま、著しく疲弊、混乱した経済を立て直す糸口はつかめない。
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