山の中腹に土産物の露店がぽつり。売り子の女性の笑顔が優しい。手作りなのだろう。不ぞろいな木製のお猪口(ちょこ)を2つ手にとる。「お友達が少ないのですね」と売り子さん。機転が利いた一言に「ではもっと」。思わず応じてしまった。
▼5年前、北朝鮮の景勝地、金剛山(クムガンサン)を訪れた時の話だ。1998年に韓国と共同で始めたこの観光事業は、北朝鮮の主要な外貨収入源だった。働く人々は当局が厳しく選んだとはいえ、商いを楽しむ姿には驚かされた。事業は2008年夏、韓国の観光客が北朝鮮兵士に射殺された事件を機に、今も中断したままだ。
▼よほど窮しているのだろう。北朝鮮が金剛山事業の早期再開を韓国に迫り、応じなければ契約を破棄すると通告してきたという。そういえば、住民から外貨や隠し財産を召し上げようと実施したデノミネーション(通貨の呼称単位の変更)も、さんざんな失敗に終わったらしい。住民の抗議行動も起きているとか。
▼「顔のシミ取り、元気さ誇示に努力」「焦燥感あらわ」「神経質」。韓国の情報機関、国家情報院が分析した将軍様の最近の様子だ。最後の頼みか、近々の訪中説も流れる。いっそ、ぶっそうな核開発をやめ、経済を対外開放すれば生活は良くなるのに。あの売り子さんも心の底でそう望んでいるのでは、と思う。