芥川賞作家の津村節子さんが自伝的小説『瑠璃(るり)色の石』の中で、学習院大の文学サークルが同人誌を出す資金を稼ぐために、落語家の古今亭志ん生と春風亭柳好(先々代)を招き、落語鑑賞会を開いた時のことを書いている▼酔っぱらっていた志ん生は、出囃子(ばやし)が鳴ると別人のようにしゃきっとし、絶妙な語り口に会場はわき上がった。吉原の花魁(おいらん)が登場する廓(くるわ)話を洒脱(しゃだつ)に演じていた柳好は突然、顔が引きつり絶句した▼前から数列目の正面に座っていたのは皇太子(当時)。その存在に気付くと、後はしどろもどろになり、話をはしょって楽屋に引き揚げた。皇族の前で廓話をやったことに「おとがめはないでしょうかね」と青ざめていたという。六十年近く前のことだ▼皇族の子弟が通う学習院らしい秘話だが、最近では普通の学校と変わらなくなったようだ。皇太子ご夫妻の長女の愛子さま(8つ)=学習院初等科二年=が同級生に乱暴な児童がいて、腹痛と強い不安感を訴え学校を休んでいるという▼なぜ学校に行けないか、子ども自身本当の理由が分からないことが多い。小さな胸を痛めている愛子さまにとっては決してささいな問題ではないだろう。大人たちは原因を詮索(せんさく)せず見守った方がよい▼心が疲れてしまった時、学校を休むことだってあっていい。数日の欠席がこんなに注目される立場が気の毒でならない。