杞(き)の国の人が天の落下を心配した中国の故事から、取り越し苦労を杞憂(きゆう)という。人間同様、かつて地上の王者だった恐竜も空から破壊者が降ってくるとは想定外だったろう。科学者の国際チームが、恐竜絶滅の原因は隕石(いんせき)の衝突だと結論づける論文を発表した。
▼衝突した時期は6550万年前、場所は今のメキシコにあるユカタン半島。直径が約10キロメートルというから、都心を走る山手線に匹敵する大きさだ。生じた粉じんが空を覆い多くの動植物が死に、食料の減少で恐竜も絶滅に追い込まれた。地道な地層調査の積み重ねから導かれた結論だという。
▼もし隕石の軌道がほんの少しずれ、地球にぶつからなかったらどうなったか。恐竜の天下が今も続いたのでは、との予想も多いそうだ。そうなれば哺乳(ほにゅう)類は陰でひっそり生きるしかなかったろうという(真淳平著「人類が生まれるための12の偶然」岩波書店)。数々の偶然や犠牲の上に人間社会が生まれたわけだ。
▼隕石は再び来ると、研究チームの一員でもある松井孝典・千葉工大惑星探査研究センター所長は著書で語る。ただし先の規模のものは数千万年に1回。それより食料不足や温暖化などで近代文明が崩壊する方が早く、猶予は「あと100年」とみる。人が自ら種をまいた災厄に無策のまま臨むのでは、やや情けない。