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クロマグロ―資源管理へ日本の知恵を

 高級な刺し身やすしに使われるクロマグロのうち、日本への供給量の半分を占める大西洋産が来なくなる可能性が出てきた。

 カタールで13日に開幕するワシントン条約締約国会議で、この海域に生息するクロマグロを保護するため国際取引を禁止する決議案が出される。

 有効投票の3分の2以上が賛成ならば、地中海を含む大西洋産のクロマグロの国際取引ができなくなる。欧州連合や米国が支持している。

 日本は世界中でとれるマグロ類の4分の1、クロマグロについては8割を消費している。クロマグロの国際取引が止まれば太平洋産に頼るしかなくなる。約1年分の国内在庫があるとはいえ、影響は大きい。

 この海域のクロマグロの資源管理は本来、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の仕事だ。絶滅の恐れがある野生生物の保護が目的のワシントン条約で扱うのは筋違いだとする日本政府の主張には理がある。

 ただ、クロマグロの資源は年々減少している。欧州では、日本との取引を念頭に、生息する魚類を根こそぎ取る「巻き網漁」が広がり、乱獲や密漁も後を絶たない。さらに近年は、海でとった幼魚をいけすで太らせる「畜養」ビジネスが拡大している。

 ICCATはこれまで漁獲枠や禁漁期の設定によってクロマグロの資源管理を進めようとしてきた。しかしその効果は不十分だった。

 資源が枯渇しかねないという批判に対して日本政府も手をこまぬいていたわけではない。ICCAT加盟の漁業国とともに昨年11月、総漁獲枠の4割削減の決定に参加したが、欧州の環境保護派は納得しなかった。フランス、イタリア両国政府がその後、国際取引禁止支持へと立場を変えた。

 事態がここまで来た以上、政府はただ決議反対を叫ぶよりも、ICCATが昨年導入した対策が実効性を持つよう規制を強め、日本が資源管理策の先頭に立つ決意を国際社会に示すことが大事ではないか。

 総漁獲枠の一層の削減、密漁や不正流通の監視態勢の強化、欧州諸国による巻き網漁船の減船。そうした具体策を示せば、日本の立場に理解を示す国が増えるだろう。

 注目したいのは、クロマグロを卵から親魚に育てる完全養殖の技術だ。近畿大学が世界で初めて8年前に実験に成功した。天然の資源に頼らずにすむ技術だ。実用化を急ぎたい。

 政府は、取引禁止になっても決定への「留保」を通告し、日本漁船による漁も引き続き認める考えだが、日本への視線は厳しくなりかねない。

 マグロの味覚を守り続けるためには、資源保護への配慮とともに消費者の我慢も必要になってくる。

朝鮮学校―除外はやはりおかしい

 高校無償化法案の審議が国会で始まった。対象に朝鮮学校の生徒を含めるかどうかについて、川端達夫文部科学相は「排除の立場では検討していない」と述べ、北朝鮮との外交上の問題は判断基準にはしないとした。

 発端は中井洽・拉致問題担当相が、北朝鮮制裁を理由に除外を提起したことだった。鳩山由紀夫首相も先月末、「国交のない国だから、教科内容を調べようがない」と語った。

 だが朝鮮学校の教育の大半は日本の学校に準じており、内容も公開されている。「調べようがない学校」ではない。先週は、衆院文科委員会の約20人が東京朝鮮高級学校を視察した。

 朝鮮学校が北朝鮮とつながりがあることは事実だ。北からの援助金に運営の一部を支えられる。高校の教室には金日成、正日父子の肖像画があり、修学旅行は中国経由で平壌に出かける。独裁体制維持の手段である主体(チュチェ)思想も朝鮮史などの授業で触れられる。

 そうであっても、朝鮮学校で学ぶ生徒への支援の問題と、北朝鮮の異様な体制への対応を同一線上でとらえるのは、やはりおかしい。

 子どもの学ぶ権利は、基本的に差別なく保障されるべきだ。核開発や拉致問題で制裁を続けていることを理由に朝鮮学校を支援から外すことは、そうした問題とは関係のない子どもたちにも、制裁を加えることになる。それはあまりにも不当なことだ。

 日本の朝鮮半島併合から100年。日本で暮らすコリアンが植民地支配以来の歴史を背負わされた存在だということも、忘れてはならない。

 第2次大戦後も日本に残った人は、その後の祖国の分断という状況に苦悩した。北を支持する人、南を支持する人、どちらにも距離を置く人。差別に囲まれ本名すら名乗りづらい日本社会の中で、北朝鮮政府に支援された朝鮮学校が、在日朝鮮人社会のひとつのよりどころになってきた。

 現在は、朝鮮学校生の半数程度が韓国籍だ。父母の姿勢も北朝鮮の支持者から反発する人まで様々である。それでも、民族の文化や言葉を大事にしたいという気持ちは共通している。

 この問題は、あくまで子どもに必要な学びの保障という観点から判断すべきだ。拉致や核と学校とをことさら結びつけるような発言に、子どもたちは動揺し、傷つく。政治家は想像力を働かせてほしい。

 大阪府の橋下徹知事は「北朝鮮という国は暴力団と一緒。暴力団とお付き合いのある学校に助成がいくのがいいのか」と、疑問を呈した。

 だが、今冬の全国高校ラグビー大会で、大阪代表として4強入りを果たしたのは、大阪朝鮮高級学校だった。地域に深く根を下ろした学校の子どもたちを、差別する理由はない。

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