ギリシャ神話では、プロメテウスが人間を創造したことになっている。その出来に「難癖」の擬人神モーモスがけちをつける話がイソップ寓話(ぐうわ)にある。曰(いわ)く、「何を考えているか分かるよう心を外側につけなかったのは失敗だ」▼人を騙(だま)すような輩(やから)を想定すれば頷(うなず)きたくなる。そして、それとは正反対、きっと優しいがゆえに、胸に悩みや痛みを閉じ込めたまま吐き出してくれず、時に最悪の道を選んでしまう人のあることを思えば…▼東京都清瀬市で中二少女が自ら命を絶った。いじめ被害を示唆するメモが残されていたという。愛知県春日井市では、同級生ら三人が小六男児をいじめて現金を脅し取るなどしていた事件が明るみに出た▼やりきれないが、いじめに遭った子はそれを周囲、中でも親には言わない傾向がある。実際、ある調査では「いじめ被害を知られたくない人」で一番多かったのは「親」(44%)だった▼関係が弱いからではない。むしろ親への思い強ければこそ。春日井市の男児も親に話していなかったが、その理由が彼らの思いを代表していよう。「心配をかけたくなかった」。では学校は? 残念だが、別の調査では、いじめ被害の経験がある子の48%が「教師は知らない」と…▼ああ、子どもの心も内側にある。親や教師がそれを見通すのに近道はない。ただ、ひたぶる目を凝らすよりほかに。