中国の国防予算の伸びが二十二年ぶりに一けたにとどまった。高まる「中国脅威論」への配慮がうかがえる。こうした流れをさらに進め、中国は「民生の大国」を目指して軍縮に舵(かじ)をきるときだ。
国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が五日、北京で開幕した。上程された二〇一〇年度予算案で国防費伸び率は前年度実績に比べ7・5%にとどまり二十一年続いた二けたの伸びが鈍化した。
そこには中国に対する各国の警戒を和らげ、平和的発展をアピールする狙いが込められているのは間違いない。
しかし、7・5%の伸びは前年度実績に比べた数字で、前年度当初予算に比べれば10・7%増と、二けたの伸びを確保している。
〇九年は建国六十周年で軍事パレードなど記念行事が相次ぎ、兵士の給与が50%も引き上げられた。予算が大幅に膨らんで、その結果、前年度実績比では伸び率が鈍化した可能性がある。
また、中国の国防費は透明性が低く内訳も不明で、航空母艦など新兵器の研究開発費は含まれていないといわれている。実際の国防費は公表予算の二〜三倍に達するとみる軍事専門家が多い。
公表額だけでも〇七年度に日本の防衛予算を上回り、現在では一・四四倍に達し、米国に次ぐ世界第二位の軍事大国となった。
世界の主要国が軍縮に向かう中、中国を脅かす国が存在しないのに軍事力を急速に強化していることが各国の不信を招いている。
中国は長く台湾統一を武力増強の理由にしてきたが対中関係改善を急ぐ国民党政権の誕生で紛争の可能性は極めて小さくなった。
周辺国との陸上国境画定作業もおおかた終わり、海洋権益をめぐる対立は中国自身が主権問題を棚上げし共同開発を目指すと強調している。覇権を求めないという中国が米国に軍拡競争を挑めば、自らの言葉を裏切ることになる。
昨年末、政府系シンクタンクの中国社会科学院は経済や社会の発展など総合国力で中国は世界七位、軍事力では米国に次ぐ二位という自己評価を下した。これは総合国力で七位にすぎない国が不相応な軍事力を備えていることを自認したことにならないか。
温家宝首相は全人代への政府報告で立ち遅れた民生を充実させ格差是正を目指す方針を強調した。
今、中国に問われるのは軍事から民生重視への本格的転換で、海外の不信を拭(ぬぐ)い去り、軍縮の流れを先導することだろう。
この記事を印刷する