春と秋の大型連休を地域ごとに分散するという休暇改革の政府案が発表された。観光や地方の振興が期待されるが、むろん課題も多い。国民的な賛同には入念な調査と広い議論が不可欠だ。
日本では唐突な提案のようだが、休暇先進国である欧州の例は参考になるかもしれない。国土交通省と経済産業省が二〇〇二年にまとめた休暇改革の報告書によると、長期のバカンスで知られるフランスが、バカンスを法律で定めたのは世界大恐慌後、経済苦境に陥っていた一九三〇年代だった。
それまで金持ちはもちろんバカンスを取っていたが、内需拡大のため、労働者が二週間の有給休暇を取れるように法律で決めたのだった。今も夏になれば北から南へ向かう国道は「太陽道路」と呼ばれ、車は数珠つなぎ。休暇は南部の観光に大きく貢献している。
戦後、フランスは休暇の価値をさらに活用した。国内を二つのゾーン(今は三つ)に分け、学校の長期休暇の期間をずらした。冬休みと春休みを分散させ、親は子どもの休みに合わせて有給休暇を取り、家族で旅行に出かけられる。親の勤め先は代替要員の確保などの対応を取る。
ドイツも州単位で夏休みの期間を変えている。休暇は人間への効用がまず挙げられるが、国家規模の経済効果は欧州では実証済みと言ってもいいだろう。
今回の国交省発表案では、春と秋に土曜日も含めて五連休となるように祝日法を改正。実施の際は、国内を五つの地域ブロックに分けて日をずらす。憲法記念日、体育の日など従来の祝日を休日とせず、年間休日数は変わらない。
分散案は「観光立国」に向けた施策の一環だ。財政出動を伴わず、内需拡大、地域振興につながればもちろん素晴らしい。
しかし課題は多い。製造業の場合、工場によって休日が違うと、生産工程に支障が出るだろう。銀行の営業日が地域ごとに違えば、困る企業も出てくる。広範囲を動く運送業などには不都合だ。何より働く人が休暇を取れる環境が必要になる。
どのような影響があるか。産業界をはじめ、国民生活にかかわることだけに徹底して調査を行い、広く意見を聞かねばならない。政府は秋にも法案提出というが、まずデータをそろえ、情報公開し、国民の考えをよく聞くべきだろう。休みの在り方をあらためて考える機会になればさらにいい。
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