HTTP/1.1 200 OK Date: Fri, 05 Mar 2010 22:16:10 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:もうずいぶん昔になるが、ある動物園で、一頭の哀れな母ザルの…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2010年3月5日

 もうずいぶん昔になるが、ある動物園で、一頭の哀れな母ザルの話を記事にしたことがある▼子を授かってからしばらく後だった。ほかのサルが、いたずらで母ザルから子ザルを奪い、揚げ句、高所から猿舎のコンクリート地面に投げつける形になって死なせてしまったのである。母ザルは、わが子の亡骸(なきがら)を抱きかかえ、決して離そうとしなかった。飼育係が無理に取り上げるまで…▼切ないまでの母性に胸が詰まった覚えがある。それは、サルの行動を「人間の尺度」でとらえ、親が子を思う愛の強さは同じ、と見たればこその感懐だったはずだ。今、その「人間の尺度」を揺さぶるようなニュースに接し、言葉を失う▼奈良県の夫婦が、五歳の長男に十分な食べ物を与えず餓死させた、として逮捕された。男の子の体重は標準の三分の一ほど、たった六・二キロしかなかったという。むごい、などという言葉では足りない▼わが子が日々衰弱していくのを、一体、どんな思いで見ていたのか。夫婦は「愛情がわかなかった」と供述しているという。身勝手だ。身勝手過ぎる▼<子がわれかわれが子なのかわからぬまで子を抱き湯に入り子を抱き眠る>河野裕子。何より、そんなふうに、「人間の尺度」で愛してもらうことのなかった男の子の短い生涯が不憫(ふびん)でならぬ。母親よ、せめて亡骸をしっかり抱いてやってくれないか。

 

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