神は細部に宿る。一生懸命に探せば。その居場所は必ず見つけられる――。そんな確信に満ちた言葉を、米国の学者から聞いたことがある。名門米企業が次々と没落し、貿易摩擦が高まった20年前。産業界だけでなく学界も真剣だった。
▼トヨタやソニーなどの日本企業は、なぜ強いのだろう。その秘密を探ろうと電気、原子力、経済など30人の教授がチームを組んだ。工場内の様子から組織を動かす工夫まで、克明に描き出した報告書は、全米の企業に衝撃を与えた。マサチューセッツ工科大(MIT)の「メードインアメリカ(米国製)」である。
▼正体が分からない敵は恐ろしい。だが種明かしができれば、あとは学ぶだけ。トヨタの組み立てラインがU字型だと知って、チームの学者が感激していた。工員が体を回転させて体の前と後ろで作業できるため、一直線のI字型より効率がよいからだ。細部に宿る事実の探求を楽しむ。工科大の精神と呼ぶべきか。
▼ジュネーブで自動車ショーが始まった。しょんぼり気味のトヨタとは対照的に、現代・起亜など韓国勢の元気がいい。その強さの秘密を、日本企業はどれだけ正確に知っているか。MITの報告書の中身は「日本製」の研究だが、題名は「米国製」とした。米国人の意地だったに違いない。日本人の意地も見たい。