川辺川ダムが問題になった球磨川水系の荒瀬ダム撤去は、既存ダムの完全撤去では全国初だ。費用は難問だが「脱ダム」で川の流れや水質、生態系がどう戻るか、モデルとなる取り組みを期待する。
荒瀬ダムは一九五五年、熊本県八代市の球磨川に完成した県営発電ダムで、総貯水量約千十四万立方メートル、中規模のダムだ。二〇〇二年、潮谷義子前知事は撤去を表明したが、蒲島郁夫現知事は存続に転換した。しかし今年三月が期限切れの水利権更新が困難で、撤去に再転換となった。
ダム湖には大量の土砂、泥やごみがたまる。昨年五月に発生の赤潮など水質悪化、アユ漁などへの悪影響をダムに結びつける住民も多い。撤去は全国のダム前提の河川整備を、全面的に見直すきっかけになると期待してよい。
日本の本格的なダム建設は二十世紀初めにさかのぼる。今では既設、建設中合わせ二千八百九十基のダムがある。戦後の復興や経済成長に、相応の役割を果たしたことは認められる。最古のコンクリートダムは上水用の神戸市の布引五本松ダムで、一九〇〇年完成だが現在も運用されている。橋などと違い、適切に管理すればダム堤体の耐久性も問題は少ない。
ダム湖には水以外に源流からの土砂が堆積(たいせき)し、年々量は増える。一方河口に運ばれる土砂は減り、海岸の浸食が進む。
水質の変化、魚類の自由な移動を妨げるなど生態系への影響も無視できない。近年は、異常な降雨による増水がダムの貯水容量を超えた時、放流で逆に下流を危険にさらすとの指摘もある。
ダム撤去はこれらの問題解決の第一歩で、荒瀬ダムはテストケースとして注目したい。まずダム撤去−川の流れ復元の前後で水位、水質、排砂の機能、生態系や下流への影響がどう変わるか、厳密で詳しい記録を残すべきだ。
難問は九十億円以上の撤去費用で、国の支援は見込みが薄い。県は二年間の水利権延長で発電を続け、費用の一部にと考える。だが二度も方針を変えた県への不信から、地元住民や漁協は速やかな撤去を求めている。
せっかくの全国初の試みだ。撤去で得られる資料は、他のダム撤去が後に続けば大いに役立つ。治水、利水を問わずダムのない河川管理のデータ蓄積のために、国は何らかの形で撤去にかかる費用の一部を支援し、撤去が順調に進むよう協力すべきではないか。
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