チリ中部沿岸の大地震で日本列島にも津波が押し寄せ、岩手県や高知県で最大1.2メートルを観測した。国内で死傷者の報告はなく、政府は対応の迅速さを強調している。津波への備えにぬかりはないのか。
1960年のチリ地震による津波で140人を超える死者が出たように、日本列島には遠くの大地震でも津波が襲来しやすい。列島の周りは巨大地震の巣で、93年の北海道南西沖地震による大津波では奥尻島で200人以上が亡くなった。
気象庁は17年ぶりに大津波警報を発令し、東北3県で33万人に避難指示・勧告が出て、約2万人が避難所に移った。高台に逃げた人もあり、避難者の実数は不明だが、勧告に従わなかった人もいるとみられる。津波対策の要は迅速な避難であり、まず津波の怖さを知るのが肝要だ。
高齢者や体が不自由な人は、安全に避難できたのか。自治会や青年団などが高齢者らを手助けする支援策は、地域への帰属意識の薄れやプライバシーの問題から、遅れている。災害に弱い人を地域全体で支える「共助」の仕組みづくりを、国や自治体が後押しする必要がある。
2030〜40年代に想定されるマグニチュード8級の「東南海・南海地震」による津波は、経済活動への影響も懸念される。中央防災会議によると、東海から四国沖の広い範囲で5メートルを超える津波が起こり、死者8600人が推定されている。
東京や大阪、名古屋の地域防災計画は、防潮堤や開閉式の防潮扉で津波を防ぐのが前提だ。だが高潮対策のために造った防潮堤は、耐震性の低さが指摘されている。ムダな公共事業は減らしても、防災上重要な施設の耐震化は怠ってはならない。
施設の整備に頼らず、事前に避難計画や復旧計画を決めておくのも有効だろう。地下街や高層ビルが増え、最近の風水害では地下街の浸水など予期せぬ被害が生じている。
特に地下施設は、津波が建物や車の破片を巻き込んで大量に流れ込み、死傷者が出る恐れがある。地下街の管理者や行政が事前の避難誘導計画づくりを急ぐべきだ。
自家発電機や情報の要であるコンピューターを地下に置かないなど、企業ができる対策も多い。