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大阪のベッドタウン、池田市は3年前、市役所の予算の使い道の決定に市民が参加できる制度を始めた。
11の小学校区ごとの住民組織「地域コミュニティ推進協議会」に、地域での事業と予算の提案権を認めたのだ。
協議会の委員は公募で、限度額は1校区あたり年約700万円。防犯パトロール車の購入と住民による巡回、小学校の校庭芝生化、高齢者の配食サービスなどがこれまでに実現した。
一部とはいえ税の使い道を市民が決める工夫である。倉田薫市長は「自分たちの地域は自分たちでつくる。それには市民が税を支配し、汗もかいてほしい」とねらいを語る。将来は限度額を広げ、小学校の体育館改築といったハード分野まで含めたいという。
池田市の地域型に対し、千葉県市川市はテーマ型だ。市民が納める住民税の1%分を、自分が応援したい市民活動団体の資金支援に回せる仕組みだ。5年前に導入した。
「年金暮らしでも参加したい」という声がお年寄りから出て、指定のボランティア活動などでもらえる点数もお金に換算して支援に回せることにし、より多くの市民が参加できるようになった。2009年度はNPOなど130団体に計2100万円が回った。
二つの制度が生まれた背景には自治体の財政難がある。行財政改革だけでは追いつかず、市民に自治や協働を求めざるを得ない台所事情だ。
一方で、市民の側には多様な公共サービスを自分たちも担おうという機運の高まりがある。コミュニティーを再構築しようという動きでもある。
千葉県我孫子市は、市役所が担う約1100の仕事すべてを対象に民間委託や民営化の提案を公募した。市役所と民間のどちらがやれば、より市民の利益になるかという視点で提案を吟味し、これまでに妊婦対象の教室や公民館講座などの37件が採用された。
肥大化した行政サービスを見直そうという3市のような試みは、ほかの自治体にも広がっている。
しかし、民間が市役所の単なる下請けになったのでは意味がない。行政サービスは画一的になりがちだ。地域のニーズをきめ細かくつかんだ新しいサービスの形をつくり出したい。
そのためには、予算づくりをはじめとする行政情報が市民に公開されている必要がある。そして市民が税金の使い方にもっと口を出す。汗もかく。地域の力を生かし、市民の意思で動く市役所へと変えていく。そうした変化は鳩山政権が唱える「新しい公共」にも共鳴することになるだろう。
地方分権が進み、権限と財源が政府から自治体へと移っても、首長の力が大きくなるだけでは足りない。分権の実をあげるためには、市民の自治こそが欠かせないのでは。
チリ中部沖の海底でマグニチュード(M)8.8の巨大地震が発生した。ハイチ地震の約500倍の巨大なエネルギーである。
この巨大な地震によって発生した津波はほぼ一昼夜かけて太平洋を越え、北海道から九州、沖縄まで、休日の日本列島を襲った。
気象庁は、3メートルを超す津波が予測された青森県から宮城県にかけての太平洋岸に17年ぶりの大津波警報を出すなど、厳重な警戒を呼びかけた。
多くの自治体が住民に避難を指示した。海岸沿いの鉄道が運休、道路も各地で通行止めになり、市民生活には終日、大きな影響が出た。
高台に避難して不安な時間を過ごした人もいるだろう。最大で1メートルを超す津波が各地で観測され、道路やビルなどが冠水したが、大きな被害がなかったのは幸いだった。
ちょうど50年前の1960年5月にもチリで、20世紀以来で最大のM9.5の巨大地震が起きた。ほぼ1日後、津波が日本列島を襲った。日米安保条約の改定をめぐって国内が騒然としていたころである。
このとき津波の到達は全く予想されず、気象庁が津波警報を出したのは津波が到達した後のことだった。未明に最大5メートルを超す津波に襲われ、三陸地方などを中心に140人を超える犠牲者が出た。
太平洋の島々の人々も突然、大津波に襲われ、イースター島ではモアイ像が壊れた。
全く地震がないのに襲ってくるこうした津波を「遠地津波」と呼ぶ。不意に襲われるうえ、第2波、第3波の方が高くなる特徴があり、恐ろしい。
前回のチリ地震津波の経験から太平洋の沿岸国が協力してできたのが、米国ハワイにある太平洋津波警報センターだ。今回も日本をはじめとする沿岸国に素早く津波警報を出した。
2004年にインド洋沿岸で大被害を出したスマトラ沖大地震・津波の経験も、より広い地域での地震や津波の観測・警戒のネットワークづくりに生かされている。
こうして津波の到達時刻や高さが予測できるようになったのは、大きな進歩だ。予測の精度をさらに向上させ、被害の軽減に役立てていきたい。
津波のこわさは、ふくれあがった海が巨大な固まりとなって押し寄せてくることだ。水が引くときに強い力で引き込まれる。数十センチの高さでも大人が流されることがある。決して侮ってはいけない。
未明に地震に襲われたチリでは大きな被害が出た。同じ地震国として支援の手を差し伸べていきたい。
日本では今回、津波警報が出たのは休日の昼間だった。だが、予期せぬときに襲うのが自然災害である。