第一生命保険が4月に、保険契約者一人ひとりが会社の所有者となる相互会社から株式会社に衣替えする。東京証券取引所にも上場する。株主数は約150万人と日本最大になる見通しだ。上場の責任は重い。
株式会社化は、蓄積してきた利益を株主資本とし、それを裏づけに株式を契約者に無償で割り当てる形をとる。株主となる契約者は保険金を受ける権利を持ちながら、株主総会で経営に対して発言できる。
上場の第1の目的は、経営の選択肢を増やすことにある。上場によって、公募増資や社債の発行など多様な資金調達の道が開ける。株式交換による企業買収も可能になる。
外部の株主の期待に応えるには、企業としての成長戦略を示すことが欠かせない。人口の減少で国内の保険市場は縮小している。欧米勢のように、中国など新興国に打って出ることが有効な選択肢となる。
第2の上場目的は、財務の健全性を高めることだ。上場を表明したのは2007年12月だが、金融危機を経て、保険会社にとって資本増強の必要性は一段と高まっている。
日本には、保険会社版の自己資本比率規制である「支払い余力比率規制」がある。保険金の支払いが膨らむリスクに対し、自己資本と有価証券の含み益をどの程度持っているかを測る。第一生命の前期末の支払い余力比率は768%と、警戒水準とされる200%を上回る。
この規制は12年3月期に大幅に強められ、第一生命など大手生保の比率は現状の3分の2程度に下がるとされる。世界の保険監督当局が参加する保険監督者国際機構も、統一の規制づくりを始めた。グループ全体で十分に資本の厚みがないと、積極経営もままならない。
上場には、経営に規律を与える効果がある。相互会社の社員総代会は、保険契約者が希望しても必ずしも出席できるわけではない。上場企業の株主総会は原則的にどんな株主でも出席できるだけに、経営を多角的にチェックできる。
保険会社は契約者に保険金を確実に支払わなければならない。リスクを伴う成長戦略を求める株主に、保険という業務の特性を説明する責任が、上場後の第一生命にはある。