フィギュアスケートの本番の演技を、選手たちは「試合」と呼ぶ。画面に映るのは華麗な衣装と優美な舞いだが、実際の氷の上は、鍛えた身体がぶつかる試合場だ。二人の19歳が戦った4分間の試合は、五輪の歴史に残る名勝負だった。
▼「長かったというか、あっという間だった」。試合の後に浅田真央選手が涙で語った一言に、万感の思いが満ちている。直前の4分間に、バンクーバーに至るまでの4年間が重なって見えたに違いない。「いまの自分ができることはすべてできた」。そう敗北を受け入れる勇気は、簡単にまねできるものではない。
▼銀メダルの表彰台では懸命に笑顔を見せた。その19歳の姿に、目が覚める思いがした年長者は多いのではないか。仕事で失敗したのは、職場環境が悪いから。会社の業績が落ち込んだのは、社員の働きが悪いから。企業社会には、無数の言い訳が渦巻いている。自分の試合結果から目をそらす大人では恥ずかしい。
▼歴代最高の得点を出した金妍児選手は、日本のライバルについて「もうひとりの私だ」と表現したことがある。頑張る浅田選手がいたから、己を磨く努力を重ねられたのだろう。二人の19歳のおかげで、女子フィギュアの技術水準は飛躍的に高まった。真剣勝負をしているかと自問しつつ、遠い銀盤に拍手を送る。