東京・六本木の国立新美術館と赤坂の東京ミッドタウン。先年、ほど近い距離にこの2つの名所が生まれて周辺の人の流れが大きく変わったそうだ。注目の先端スポットなのだが、実は、いずれの空間も激動の昭和の記憶を秘めている。
▼新美術館の場所にはかつて旧陸軍の歩兵第3連隊が置かれていた。片やミッドタウンの旧防衛庁跡は、もともと第1連隊の駐屯地だ。74年前のきょう起きた二・二六事件の主力部隊は両連隊である。未明、青年将校が率いる1500人の兵はその営門を出て首相官邸などの襲撃に及ぶ。大雪のなかの反乱劇だった。
▼背景はさまざまに指摘されるけれど、昭和初年以来の政治と経済の閉塞(へいそく)感が青年将校を駆り立てたとみる史家は多い。武力でそれを打ち破ろうとした彼らは、政権を倒した後の青写真も持ち合わせていなかったという。先のことをどこまで考えていたものか、情念にとらわれた末の暴発を招いた時代があったのだ。
▼新美術館からミッドタウンへの道をたどった。おしゃれな街に往時をしのぶものはない。あんな歴史はよもや繰り返されないはずだが、今の世にも漂う閉塞感が気になるのは心配のしすぎだろうか。二・二六事件の際、都心にはやじ馬がわんさと繰り出したという。まだまだ穏やかだった昭和11年の出来事である。