政府は、少子化対策に取り組む政府全体の計画書である「子ども・子育てビジョン」をまとめた。数値目標まで示し、意気込みは立派だ。だが、実現への期待はなかなか膨らまない。
ビジョンは、少子化社会対策基本法に基づき策定される「大綱」。少子化対策に政府が二〇一〇年度から五年間、どんな姿勢でどのような施策に取り組むのかを示した。民主党政権が初めて打ち出した包括的な少子化対策だ。
基本姿勢として「社会全体で子育てを支える」ことを明確にした。これまでの対策は子育てする人や若者のニーズに応えられず、少子化に歯止めがかけられなかったという反省から、少子化対策という発想をやめ、子どもや子育て家庭への総合支援策と位置付けた。
民主党政権では、子ども手当ばかりが注目されるが、必要性が叫ばれている保育サービスの充実を「車の両輪」として取り組むことも表明した。
働き方の見直しや、男性の育児参加支援、若者の就労支援、子どもの貧困・格差の解消などにも幅広く目配りした。
認可保育所の定員を現在の二百十五万人から五年間で二十六万人増やしたり、学童保育、病児・病後児保育の利用者も拡大させるなど数値目標も積極的に明記した。
民主党が政権公約に掲げた、少子化対策の“司令塔”「子ども家庭省」の実現も盛り込んだ。
「対策はすべてやる」。まさに「バラ色のビジョン」で、意気込みは分かる。残念なのは、いつまでにどう対策を進めるかの工程表がないことだ。追加支出は五年後に一・六兆円と試算したが、財源のあり方も明記しなかった。
財源については、保育現場から子ども手当支給を優先させるため、保育所整備など他の対策が割を食うのではと懸念が出ている。
同手当は政権の看板政策だが、財務副大臣二人が一一年度からの満額支給は困難との見方を示した。火消しに回った鳩山由紀夫首相もその後、満額支給にこだわらない意向を示したかと思えば、直後に否定するなど姿勢が定まらない。そんな姿を見ていると、ビジョン通り少子化への危機感と対策に取り組む意欲が本当に政権全体にあるのか疑問になる。
ビジョンがバラ色になるのは、実現できてこそだ。「一度にすべてやる」が無理なら、優先順位を示すべきだ。ビジョンを絵空事で終わらせてはならない。
この記事を印刷する