農林水産省は公設取引所の全国米穀取引・価格形成センター(コメ価格センター)の廃止を検討している。同取引所を閉鎖すれば、国内にコメの価格指標はなくなる。農家の所得補償制度で透明性のある金額を算定するためにも、価格指標を確立する努力を求めたい。
価格センターは硬直的だったコメ価格に需給を反映する市場を目指し、1990年に発足した。だが最も多かった97年産で100万トンあった取引量は、昨年産では5千トン以下にとどまっている。
農水省は品種や栽培方法が多様になり、生産者が価格センターを介さず、卸会社などと直接契約する相対取引を優先し始めたことが売買低迷の要因とみる。
取引量の減少には、売り手の農業協同組合などに課していた上場義務を2004年に撤廃した影響も大きい。消費量の減少からコメの供給過剰感は強い。取引所で売買すれば値下がりするため、生産者は上場を敬遠する。結果として、生産過剰の調整は遅れた。
農水省は今年の取引変化などをみながら廃止も考える方針を示した。ただ価格センターは唯一、消費者や市場関係者にコメの価格動向を示す場で、それがなくなる問題は大きい。卸会社の間で在庫を調整する市場もあるが、規模は小さい。
政府は10年度からコメで戸別所得補償制度の試験事業を始める。生産者は農地面積ごとの定額分に加え、販売価格が過去3年の平均を下回った場合に補助をもらえる。その算定基準となる価格も農水省調べの相対取引価格を使う。
細かい需要に対応できる相対取引に利点は多い。しかし売り手と買い手が個別に契約を結ぶため、外部から価格は見えにくい。契約ごとに交渉で価格を決める相対取引は、頻繁に売買する市場に比べ需給実勢の価格への反映も遅れる。
相対取引とは別に、需給変化を映す価格形成の場は必要だ。
取引手法の改善だけで価格センターの売買回復は難しい。需要変化をとらえ、価格競争力を強めるためにも生産者や農協が価格指標を持つ重要性を認識するなど関係者の協力が欠かせない。