国際原子力機関(IAEA)は先週、イランの核開発問題についての報告書をまとめ、「核弾頭の開発に関連した未申告の活動が存在する可能性への懸念」を指摘した。イランは2月上旬から、保有する低濃縮ウランの濃縮度数を約20%に高める作業に着手しており、国際社会のイランへの懸念は強まっている。
米欧は対イラン追加制裁に向け動き出し、追加制裁に消極的だったロシアの姿勢も厳しくなってきた。
IAEAの指摘にイラン側は反発し、「核兵器製造の意図はまったくない」(最高指導者ハメネイ師)と改めて主張した。だが、純粋に平和利用目的なら、国際社会の疑念を解消できるよう自ら行動で示す必要がある。核開発をめぐる国際的な対立の収束を目指して、イラン指導部は政治決断をすべきである。
昨年9月、聖地コム近郊の濃縮施設建設を秘密裏に進めていたと、米欧に暴露された後、イラン側の姿勢には変化も見えた。10月初めの米、英、仏、ロシア、中国、ドイツとの協議では、保有する低濃縮ウランの大半を国外に移送、追加濃縮・加工しテヘランの研究用原子炉の燃料棒として戻すIAEA案に、アハマディネジャド・イラン大統領らもいったんは原則的に同意した。
ところが、譲歩しすぎとの異論が国内から出て、協議は行き詰まった。昨年の大統領選以来、イラン国内の保守派と改革派の衝突が注目されてきた。だが、大統領周辺と、国会、司法府という保守派内部の抗争も激しく、政策が前に進まない。
IAEA案についても、低濃縮ウラン引き渡しは部分的にとどめ、燃料棒受け取りと同時に国内で行うとの条件を付けるようになった。これでは軍事転用の可能性を消すことにならないし、イランが求める燃料棒を事前に用意するのも難しい。
イランから大統領に対抗する有力者ラリジャニ国会議長が今週、来日する。IAEA案に基づく問題収拾を目指し、日本は議長説得に最大限の努力をすべきだ。IAEA事務局長に日本の天野之弥氏が就任したばかりだし、核安全保障サミットが開かれる4月には、日本が国連安全保障理事会の議長国を務める。日本が外交で存在感を示す好機である。