日本経団連の次期会長に就く住友化学の米倉弘昌会長が記者会見した。日本はデフレ脱却を展望できず国民所得は細るばかりだ。鳩山政権との関係を密にし「国民と共生」の道を切り開いてほしい。
「国民目線で民間の力を発揮したい」。米倉氏はこう抱負を述べた。五月の正式就任までに、新たな経団連像を国民に示してもらいたい。その経団連が今、「企業とは何か」を国民に問いかける準備を進めている。
企業が生み出す付加価値は国内総生産のほぼ半分、年二百六十兆円に上る。国の年間税収約四十兆円のうち、企業が納める法人税は十兆円前後。六千万人を超える就業者総数のうち五千万人が企業で働いている。企業こそが日本経済を担っていると誇りたいようだが、釈明に終始すべきではない。
日本は中国などとの低賃金競争に巻き込まれ、三人に一人が非正規労働者だ。新興国も先進国と同様に富を享受するグローバル化時代。富の目減りは人件費削減で埋める。この手法を根づかせているのが今の日本企業の姿だろう。
経団連には、日本製品の集中豪雨的な輸出が米欧の反発を招いた時代に、「共生」で応えた歴史がある。米倉氏も、雇用の安定など、「国民と共生」に正面から挑むよう望みたい。細る国民生活への気配りを欠いては、結局は企業も生き延びられない。
技術立国こそ日本を成長させる−が持論の米倉氏に対し、鳩山政権は自民党政権時代の企業優先の姿勢を後退させ、子ども手当など個人に目を向けた生活安定に重きを置いている。経団連は長く自民党を中心に企業からの献金を仲介してきたこともあり、鳩山政権との関係はしっくりいっていない。
日本経済を再び成長軌道に乗せるには、政策を総動員した民間主導の技術開発も、税財政による家計支援も不可欠だ。経団連は政府との協力関係を強化して自由貿易協定の網を広げ、台頭するアジア、インド圏や欧米などの需要を取り込んで日本経済を復調させる戦略・戦術を打ち出すべきだろう。
政府は環境や健康、観光を重点に百兆円超の需要を掘り起こす成長戦略の策定を進めている。鳩山政権も公約の「国民生活第一」に沿って経団連と協働する度量を示すときだ。
米倉氏には一兆円の巨費を投じ住友化学をサウジアラビアに進出させた実績がある。その手腕を国民に安心を送り届ける経団連への脱皮にも生かすよう期待したい。
この記事を印刷する