城巡りが趣味の友人によると現存する城郭もいいが、想像力をかきたてる城跡も面白いそうだ。その代表格は壮麗な天守と総石垣で有名な安土城だろう。信長が築城し、3年で焼失した幻の城だ。発掘調査で石段などが復元されている。
▼この城跡がある滋賀県安土町が隣接する近江八幡市に合併する問題で揺れている。昨夏、合併を推し進めた当時の町長が住民投票でクビになり、1週間ほど前に同じく推進派が多い町議会の解散が住民投票で決まった。「安土」の名を残したいという住民の声を軽視して合併に走ったことへの不信感が強いようだ。
▼民間ではキリンとサントリーのように経営統合する計画を解消する動きが出ている。双方の合意のうえで縁組に動いたとはいえ、将来像や思惑にずれが生じたとなれば破談もやむを得ないのだろう。周囲の期待はあっても、最後は当事者間の問題である。しかし、杓子(しゃくし)定規な行政の世界ではそう簡単にはいかない。
▼安土町の場合、前町長時代に手続きが済み、3月21日の合併がすでに決まっている。法律上、離婚は可能だが、婚約解消はできないので、町に戻るためには合併した後に新市の議会で改めて議決する必要がある。一番不愉快な思いをしているのは相手に嫌がられたまま一緒になる近江八幡市の住民だと思うのだが。