脱税など経済事件の取材をしていると、英領ケイマン諸島、バージン諸島などの名をしばしば耳にする。「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれ、税の優遇や匿名口座を求めて世界の企業や富裕層から、巨額の資金が流れ込む国や地域だ▼監視組織「タックス・ジャスティス・ネットワーク」の推計では、タックスヘイブンに蓄えられた富裕層の資産は約一千百兆円という気の遠くなるような金額だ▼税収の損失は毎年二十四兆円になる。公正に課税されれば「地球上の貧困を何度も救える」と指摘されるほどの資金が、各国の課税当局の監視を免れている現実がある▼それと比べるとスケールは小さいが、実母から計十二億円もの資金提供を受けながら、贈与税を払っていなかった鳩山由紀夫首相も「強欲な資本主義者」たちの姿とどこか重なって見えてしまう▼先週始まった確定申告で、納税を呼び掛ける鳩山首相の言葉は、あきれるほど説得力がなかった。「税金を払うのがばかばかしい」という怒りの声があふれるのも当然だった▼きのうの長崎県知事選で、与党推薦の新人候補が敗れた。昨年四月の名古屋市長選以来、民主系候補は地方の首長選でも連勝を続けたが、鳩山首相と小沢一郎幹事長が抱える「政治とカネ」の問題が大きな敗因だ。まじめな納税者を裏切る政治は、しっぺ返しを受けることになる。