オバマ米大統領が十八日、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世と初会談した。人権問題の批判を控えてきた対中姿勢を転換した。米中対立のはざまで、日本の外交力が問われている。
ホワイトハウスによると、大統領はチベットの宗教や文化、人権を守ることに「強い支持」を表明した。一方、中国外務省は「民族感情を傷つけ中米関係を損なった」と抗議する声明を発表した。
オバマ政権は発足以来、中国の人権批判を避け金融危機や核不拡散、地球温暖化問題などで協力を求め、中国との「戦略的信頼」関係を追求してきた。
しかし、今年に入り米検索大手グーグルが受けたサイバー攻撃で中国を批判。台湾への武器売却決定にも踏み切り、対抗して中国は対米軍事交流を停止した。
米国が強硬姿勢に転じた背景には、ネットで一党独裁を批判した評論家の劉暁波氏が昨年末、懲役十一年の実刑判決を受けるなど、中国の人権状況悪化がある。
昨年十二月の気候変動枠組み条約第十五回締約国会議(COP15)では、温家宝首相がオバマ大統領が求めた非公式首脳会議出席や二国間会談に応じようとしなかった。いち早く金融危機を克服した中国が示し始めた「勝ち誇った態度」(米誌)も、米国の対中政策見直しにつながった。
しかし、増え続ける米国の財政赤字を中国が巨額の米国債を買って埋め合わせ、ドル資産の暴落は両国とも大損につながる相互依存関係に変わりはない。
大統領は会談で「中華人民共和国のチベット族」と表現し、独立運動に身構える中国へ配慮を示した。中国側も会談直前に米空母の香港寄港を拒否せず、関係改善へサインを送っている。
米国は十一月に議会中間選挙が迫り中国も二年後に指導部を一新する共産党大会を控えている。
内政の事情から、ただちに妥協的な姿勢はとりにくい。相互依存を深める一方、当面、人権問題の応酬を続けることになる。
両国と深い関係を持つ日本にとっては、存在感を示せるチャンスだ。しかし、米国とは普天間問題で信頼関係を損ない安保体制見直しも手が付かない。中国とも友好のエールを交わすばかりで具体的な協力は進んでいない。
「政権との間合いをはかる」(外務官僚)時期は過ぎた。今こそ政府と民間の総力を挙げ、米中の間で日本が独自の存在価値を発揮できる戦略を探るときだ。
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