来月中旬の集中回答に向け今春闘での労使交渉が本格化した。焦点は定期昇給の維持と非正規労働者の待遇改善だ。経営側はデフレ阻止と中間所得層強化の視点に立ち、しっかりと答えてほしい。
今春闘は労組側が合意点のハードルを下げたことが特徴だ。連合は賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)要求を見送り、賃金カーブ(定昇)維持に焦点を絞った。厳しい状況下の雇用を優先させたためだ。
連合本部の闘争方針が現実路線に転換した結果、自動車や電機、鉄鋼、流通、情報など主要企業労組は大半が定昇と一時金(ボーナス)優先の方針を決定。このほど相次いで要求書を提出した。
経営側は支払い能力低下や総額人件費の抑制を掲げて定昇維持にも厳しい姿勢だが、最近の経済情勢は昨年とは異なっている。
内閣府が発表した昨年十〜十二月期の国内総生産(GDP)は前期比1・1%増、年率換算で4・6%増と三・四半期連続でプラス成長となった。輸出の好調など景気の持ち直しを裏付けた。
企業業績も回復傾向にある。トヨタ自動車や日立製作所など業績の厳しい企業もあるが、上場企業の今年三月期決算は二期ぶりに大幅な経常増益になるという。
このため経営側にも「実際に定昇の延期を行う企業はそれほど多くないのでは」(大橋洋治・日本経団連副会長)との声がある。
楽観論は戒めたい。経営側は今年、主要企業の定昇維持と定昇制度のない中小企業の賃上げ要求、さらに非正規労働者の時間給アップに真剣に答えるべきだ。
定昇は一年ごとに年功として賃金が増える制度で生活給そのものである。凍結すれば“賃下げ”効果をもたらす。それでは日本経済が抱えるデフレ問題は解決しない。物価下落と景気低迷の悪循環を断ち切ることが重要だ。
定昇を含めた賃上げが必要な別の理由もある。これまで日本社会を支えてきた中間所得層を、もう一度強化することだ。
国税庁の調査では二〇〇八年の民間サラリーマン約四千六百万人のうち、年収三百万円以下の人は千八百十九万人で全体の39・7%を占める。過去十年間で構成比は7・4ポイントも上昇した。
三人に一人が非正規労働者となったことや高齢者の再就職で低所得層が増えている。賃金の底上げで中間層を増やすことが、経済社会の基盤強化につながる。日本の将来を考えた回答を求めたい。
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