新しい防衛大綱をつくるために設置された有識者懇談会が初会合を開いた。政権交代で防衛政策の見直しは当然だが、なし崩し的な武器輸出三原則の緩和やPKOへの参加拡大は避けねばならない。
設置されたのは「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」。京阪電鉄の佐藤茂雄(しげたか)・最高経営責任者(CEO)を座長に、計十一人の委員らで構成される。
懇談会では、安全保障の基本方針を示す「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」の年末の改定に向け、周辺諸国の軍事力近代化への対応や日米同盟の深化に関する報告書を、八月までにまとめる方針だ。
同様の懇談会は麻生前政権でも置かれ、昨年八月の衆院選直前に報告書を提出した。その中には、集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈の見直しや武器輸出を禁じた三原則の緩和、敵基地攻撃能力の検討なども盛り込まれている。
今回の懇談会には、前回もメンバーだった学者らも含まれているが、新政権下の懇談会が旧政権下でつくられた報告書を引き継ぐ必要はない。新しい発想で、安全保障政策の未来像を描いてほしい。
ただ気になるのは、北沢俊美防衛相が武器輸出三原則の緩和を検討すべきだと主張していた点だ。
背景には、三原則下では米国以外との武器の共同開発に参加できず、欧米で主流となった国際共同開発に乗り遅れるとの危惧(きぐ)や、防衛費削減で国内防衛産業が弱体化しているという事情がある。
しかし、三原則は一九六七年以来、外交の基本となってきた国是の一つだ。可能な限り堅持すべきで、防衛産業救済のために国是を見直すことがあってはならない。
同様のことは国連平和維持活動(PKO)への参加でも言える。
民主党はPKOへの積極参加を掲げ、ハイチ大地震では復興支援のため陸上自衛隊を派遣した。
岡田克也外相は参加要件の緩和へ、紛争当事者の停戦合意や最小限の武器使用など参加五原則見直しを提唱している。
人道支援活動の拡大に異論はないが、自衛隊員らが武力衝突に巻き込まれる恐れはないのか、派遣に当たっては慎重を期すべきだ。
国際情勢に対応して安全保障政策を見直すことは必要だが、憲法との整合性に疑義が生じるようなことがあってはならない。
熟議を経ず、なし崩し的に安全保障政策の原則を変えれば、禍根を残すことになる。
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