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騙(だま)し絵で知られるオランダの画家エッシャーに「滝」という作品がある。水路から落ちる水が水車を回して流れる。流れを目で追っていくと、あれ? また同じ落ち口に戻っていく。錯覚を巧みに使い、現実にはありえない無限連鎖を描いた傑作とされる▼ありふれた無限連鎖も人の世にはある。「今どきの若い者は……」の嘆きである。かのソクラテスも若者に嘆息したそうだ。言われた者がいつしか言う年齢になり、生きかわり死にかわり、有史以来のバトンリレーが続いてきた▼かつて「太陽族」があり「みゆき族」があった。五輪スノーボードの国母和宏選手の服装問題も、逸話の一つになろう。だいぶ叩(たた)かれ、国会でも取りあげられた。出場辞退がちらつき、本人は開会式参加を自粛した。「バンクーバー五輪外伝」として記憶されるに違いない▼多少の小言はわが胸にもある。にも増して、ひとりの若者のささいな「未熟」をあげつらう、世の不寛容が気になった。若いネット世代からの非難も目立ったと聞く。どこかとげとげしい時代である▼皮肉屋だった芥川龍之介に一言がある。〈最も賢い処世術は社会的因襲を軽蔑(けいべつ)しながら、しかも社会的因襲と矛盾せぬ生活をすることである〉。だが、若い身空でその処世術にたけた人物が魅力的だとも思えない▼「両親が見えた。応援してくれるのでうれしかった」と臨んだ決勝ではふるわなかった。8位は不本意だったろうが、次がある。4年後に、「今の若い者は」と嘆くほど自身が老け込んでいないよう、願っている。