政権交代後初めての党首討論が行われたが、中心テーマは「政治とカネ」。財政や外交など「国のかたち」をめぐる骨太の議論は聞かれなかった。せっかくの機会に、なぜ国家像を競わないのか。
谷垣禎一自民党総裁が、母からの巨額の資金提供を攻撃し、鳩山由紀夫首相が謝る。どこか既視感の漂う討論だった。
谷垣氏の持ち時間は三十五分。このうち約三十分を、首相の資金問題や、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件など「政治とカネ」の問題の追及に費やした。
両党首の直接対決は、昨年十月と今年二月の代表質問、一月の衆院予算委員会に続いて四回目だ。
予算委では「政治とカネ」の問題を、二月の代表質問では、民主党内の状況を小沢氏に権力が集中する「小沢独裁」と追及した。
野党が、与党の弱点を徹底攻撃するのは当然だ。内閣支持率が下落した今、政権追及の手綱を緩めるわけにはいかないだろう。
「政治とカネ」は、政治不信の元凶になってきたという意味で重要であり、首相の資金問題が、国民の納税意欲をそいでいる、という谷垣氏の主張も理解できる。
首相や小沢氏の説明が、国民を納得させるに足るものではないことも、この問題を引きずる底流にあることも否定できない。
しかし、それに劣らず重要なのは、疲弊した日本経済や国民生活の立て直しであり、この国を持続的、安定的に運営するための財政、外交のあり方ではないのか。
両党首から自らが追い求める「国のかたち」がどういうものか、聞かれなかったのは残念だ。
これまでで一番聞き応えがあったのは、谷垣氏が「自助・共助・公助」による絆(きずな)社会を掲げ、首相が「新しい公共」という概念で切り返した昨年の代表質問だと言ったら、皮肉にすぎるであろうか。
谷垣氏に続き、公明党の山口那津男代表は、政治資金規正法の強化に向けた与野党協議機関の設置を呼び掛け、首相は民主党代表として応じる考えを示した。
これを奇貨として、「政治とカネ」をめぐる論議を、この協議機関に移してみてはどうだろう。
その方が予算案や法案審議に身が入り、議論を深められる。党首討論も国家像を競う本来の姿に戻すことができるのではないか。
ただ、このことで首相や小沢氏の説明責任が減免されるわけではないことは、言うまでもない。
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