自分に同じことができるだろうか? そう自問自答する人も少なくなかったと思う。JR中央線の高円寺駅ホームから転落した若い女性を救うため、線路に飛び降りた児童福祉施設職員の佐藤弘樹さん(24)の振る舞いだ▼「見て見ぬふりはできない」と、とっさの判断で他の乗客に非常ベルを探すように声を掛け、線路に飛び降りてから、電車がホームに入ってくるまで一分ほどしかなかったという▼きのう、高円寺駅のホームに立ってみた。人員減なのか駅員の姿は一人もない。ひっきりなしに電車が来る中で、佐藤さんのように行動できるとは到底、思えなかった▼JR東日本と東京消防庁は佐藤さんに感謝状を贈った。五輪報道に埋もれたのは残念だが、巻き起こした感動はスピードスケート男子500メートルで銀メダルの長島圭一郎、銅メダルの加藤条治両選手にも決してひけをとらないと思う▼転落した女性は、酔ってホームを歩いていた。JR東日本によると、二〇〇八年度、自殺以外でホーム上や転落して列車と接触した事故は六十六件で、酒に酔っていた人が多いという▼山手線では、一〇年度から転落防止のホームドアを各駅に順次設置する。これだけの事故が起きている。自殺防止のためにも首都圏のすべての駅への設置を進めてほしい。佐藤さんが起こしたような奇跡が、必ず起きるわけではないのだから。