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どこの湖の冬だろう、彫刻家で詩人の高村光太郎に「氷上戯技」という短い詩がある。〈さあ行こう、あの七里四方の氷の上へ/たたけばきいんと音のする/あのガラス張りの空気を破って/隼(はやぶさ)よりもほそく研いだこの身を投げて/飛ぼう/すべろう〉▼昔の少年たちの歓声が聞こえるようだ。時代は違うが、この2人も冬には、氷雪と戯れる子ども時代を過ごしたのかと想像した。スピードスケート500メートルで銀メダルを手にした長島圭一郎選手と、銅の加藤条治選手である▼長島選手は雑草タイプらしい。前回のトリノ五輪では惨敗して泣いた。「力もないのに出て、打ちのめされた。恥ずかしくて死にたくなった」と言う。タイムより勝ち負けにこだわる哲学は、野天の真剣勝負師を思わせるものがある▼加藤選手も前回、期待されたが6位に沈んだ。その後車を買い、ナンバーを「3399」にした。世界初の33秒台への決意というから、こちらは技を研ぎ澄ます求道の人か。どちらも恥辱と屈辱をばねに、日本勢初のメダルをもぎとった▼残念ながらフィギュアでは、ロシアに国籍を変えた川口悠子選手のペアが4位に終わった。移り住んで8年、「ペアはロシア人の誇りなんです。それが分かってきた」と言っていた。だがスロージャンプで転んだ▼〈獲物追ふ豹(ひょう)にも似たり女子フィギュア氷上リンクの轍(わだち)すさまじ〉。朝日歌壇に載った渕上範子さんの作だ。ペアとて同じ、そして銀盤の傷痕は栄光と悔恨の証人でもある。3位と4位の間の非情な距離をあらためて思う。