菅直人副総理兼財務相が三月にも消費税論議を始める意向を明らかにした。単なる数字のつじつま合わせに終わらせず、税制改革によって経済成長をどう促していくのかという視点が不可欠だ。
民主党はこれまで「四年間は消費税を上げない」という方針を掲げて、まずは歳出削減を徹底する考えを強調し、消費税引き上げ論議を事実上、封印してきた。
菅副総理はテレビ番組で「二〇一〇年度予算案が衆院を通過した段階で消費税の本格的な議論を始める」と述べ、従来の姿勢から軌道修正した形だ。
一〇年度予算編成を経験して、子ども手当をはじめ政権公約(マニフェスト)に掲げた政策を実現するためにも、深刻な財源難に本腰を入れて対応せざるをえないと考えたのではないか。
一〇年度予算では三十七兆円の税収に対して国債発行額は四十四兆円に上る。借金が税収を上回り、基礎的財政収支の赤字が大幅拡大している現状では、財政が中長期的に持続可能とは言えない。議論を始めるのは妥当だろう。
まず、不足する歳入穴埋め最優先の議論になってはいけない。従来は「これだけの不足を埋めるには何%の消費税引き上げが必要だ」といった発想が強かった。
そんな金庫番的発想は最後の最後でいい。まずは経済成長をどう実現していくのか、そのためにどんな税制が必要なのか、という観点から議論を始めるべきだ。
たとえば日本の法人実効税率は40%と諸外国に比べて高い。このままでいいのかどうか。働く女性を支援するために所得税の配偶者控除はどうするのか。
格差是正と市場競争、あるいは労働移動促進と社会の安全網(セーフティーネット)拡充のバランスはどうするのか。こうした論点はいずれも経済成長と密接に絡んでおり、税制の設計次第で日本の潜在成長力を左右するだろう。
日本社会が内向きになったという声がある一方、企業活動はグローバル化し、海外で働く人々も増えている。職場が国境を越えていく中、人材や企業の競争力を高める仕組みも必要だ。
税制改革は広く社会保障にも関係する。たとえば給付付き税額控除を実施しようとすれば、正確な所得捕捉のために納税者番号のような制度が求められる。
税制は日本という国と社会の基礎をつくる。日本復活を目指して骨太の議論を展開してほしい。
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