フランス語で木ぞり。雪国のそり遊びがスポーツとして親しまれ、リュージュの名で冬季五輪の正式種目になったのは、一九六四年のインスブルック五輪からだ▼あおむけでそりに乗り、足首で方向をコントロール、時速百四十キロ超で氷上を滑走する。体を守るものはヘルメットだけ。危険と隣り合わせのこの競技で衝撃の事故が起きた▼きのう開幕したバンクーバー五輪で、グルジア代表のリュージュの選手が公式練習中、コース外に投げ出され死亡。開会式の直前の事故は「平和の祭典」に暗い影を落とした▼史上最多の八十二カ国・地域が参加した華やかな開会式は、民族の融和や環境をテーマにした凝った演出で見応えがあった。ところが、テレビ中継の途中で、また重いニュースが飛び込んできた▼アフガニスタン駐留米軍などが、反政府武装勢力タリバンの南部の拠点ヘルマンド州マルジャ地区に軍事作戦を開始。二〇〇一年のアフガン戦争以来、最大規模の攻撃になるという▼核廃絶への期待からノーベル平和賞を受賞した米オバマ大統領は、授賞式で「正しい戦争」論を展開した。アフガンでは、タリバンとは無関係の多くの人たちが正しい戦争の巻き添えとなり血を流すことになるのだろう。命の重さは同じなのに、アフガンでの死はリュージュの練習中に事故死した選手ほど大きく報じられることはない。