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学術会議―今こそ社会の知恵袋に

 21世紀の日本をどんな国にするかという議論が本格化しようとするなか、新しい「ルネサンス」実現へ学者の立場から積極的に提言していきたい。

 日本学術会議(金沢一郎会長)は、先月半ばに発表した幹事会声明で、こんな決意を明らかにした。

 日本の科学や技術をどう育み、社会の発展や問題解決にどう役立てるか。科学者の立場で提言していく組織として生まれたのが、学術会議である。今年で61歳になる。

 現在は内閣府に置かれて、首相が議長を務める総合科学技術会議と「車の両輪」という位置づけだ。会員は自然科学から人文、社会科学まで、全国約83万人の研究者を代表する210人、日本の頭脳集団である。

 といっても、多くの人にはほとんどなじみのないことだろう。社会が直面する問題に対する積極的な取り組みが見えないことがその背景にある。

 たとえば昨年、大きな社会問題になったダム建設の是非についても、議論のもとになるような専門家としての見解が求められもしたはずだが、それに応える姿勢は見えなかった。

 内外ともにいま大きな変革期を迎えている。教育や環境、医療から食の安全まで、課題が山積みだ。学術会議には、本来あるべき、社会の知恵袋としての役割を果たしてもらいたい。

 「学術会議の機能強化が必要だ」という声は、ほかならぬ学界からも出ている。科学技術予算に逆風が吹いた昨秋の事業仕分けの後、20の学会の代表者が急きょ集まって議論し、中長期の展望に立った科学技術政策を提言する役割が重要だとした。

 鳩山政権は政治主導の政策決定を掲げ、官僚主導による審議会は減らす方向だ。ならば、科学に根ざし、科学者の専門性に裏打ちされた見解や選択肢をもとに政治家が最終判断する。それが政治主導の一つの望ましい姿だ。

 「政策の基礎に科学がなければならない」。そういって米国で「科学アカデミー」を創設したのはリンカーン大統領だ。南北戦争さなかの1863年のことだ。政府はカネは出すが口は出さない。これが変わらぬ原則である。

 いま工学、医学の専門機関もでき、合わせて千人余のスタッフがその活動を支える。主に連邦政府の諮問にこたえて年200件もの報告書を発表し、それが政策のもとになっている。

 学術会議の提言者としての役割を強めるとともに、政権もその提言を政策に生かしていくべきだ。国民の納得が得られるような、新しい時代の政策づくりをめざしてほしい。

 研究者の側にも、社会に対する責任の自覚と、学会の利害や壁を超えた行動が求められている。過去にとらわれないためには、思い切って若い力を生かすことを考えるべきだ。

米飯給食―「食の教育」のためにも

 給食を実施している小中学校などで米飯給食が広がっている。国公私立の99.9%が行い、回数も2007年度に全国平均で週3回となった。文部科学省の先月の発表では、08年度はさらに週3.1回に増えている。

 第2次大戦後、コッペパンと脱脂粉乳を中心に始まった学校給食は、すっかり様相を変えた。改正された学校給食法が昨春施行され、給食の目的自体も、「栄養改善」から「食育」へ、やっと転換した。

 米飯給食が正式に登場したのは1976年だ。余ったコメを食べてほしいという狙いがあった。いまや日本の伝統的な食生活を学び、食材について考える絶好の教材ではないか。

 米飯給食の週5回完全実施をしている学校は全国でまだ5%だ。そのなかで新潟県三条市は03年、米飯を原則にすることとし、08年からは月に1、2回あったパンやめんもやめた。

 「子どもがご飯に飽きて食べ残しが増える」と心配する声もあった。だが食べ残しの量を調べると、今年度は03年度より小学校で8.8ポイント、中学校で9.2ポイント少なくなった。子どもたちも受け入れているのだろう。

 「身土不二(しんどふじ)」という言葉がある。人間の体と土とは一体だという意味だ。明治時代に軍医の石塚左玄らが起こした「食養道運動」のスローガンに使われ、「自分の住む土地の四里(16キロ)四方以内でとれた旬のものを食べる」ことを理想とした。

 地元の魚や野菜を食べる「地産地消」に通じる考え方だ。給食でコメを主食にすれば、おかずも和食が増え、地元でとれる野菜や魚介類をより多く利用することにつながる。

 輸入食材ではなく身近なものを選べば、輸送時に排出される二酸化炭素の量を抑えようという「フードマイレージ」の考え方にもかなう。給食を地場農産物の利用などを学ぶ機会とするためにも、これまで以上に地場食材を使っていきたい。

 文科省は85年に米飯給食の実施の目標を「週3回程度」と決めた。それが達成されたことから、昨年からは「週3回以上」にしている。「週4回」とならなかったのは、「設備負担が増える」という自治体や「打撃を受ける」というパン業界からの反対が強かったためだ。

 地産地消を考えるなら、米粉を使ったパンを導入するなど、工夫の余地もまだあるだろう。

 1人当たりのコメ消費量は、昨年度59キロである。消費が最も多かった半世紀近く前の半分だ。食料自給率も65年度の73%から昨年度は41%になった。100%を超える米仏などとは対照的に、先進国の中では最低水準だ。

 コメ離れに苦しむ農家や食料自給率のことを考えるのも、食育である。

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