法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会が、殺人など凶悪・重大犯罪の公訴時効を廃止するよう求める刑事訴訟法の改正案をまとめた。今後、法制審の答申を受け、早ければ夏ごろまでに法改正が実現する。
時効廃止はかねて、殺人被害者の遺族が強く主張してきた。近年は捜査技術も進歩している。こうした点を考えれば、法改正は納得できる。
犯罪後一定の時間が経過すれば裁判で罪に問われることがなくなる。これが公訴時効で、日本では殺人などの25年が最長だ。
時間がたてば証拠が散逸し捜査や公正な裁判が難しくなり、被害者や遺族の犯人に対する処罰感情も薄れる。時効を設ける主な理由はこう説明されてきた。しかし、説得力はなくなってきている。
なにより、犯罪被害者団体は「悲しみや犯人への憎しみが薄れることはない」と訴え続けている。DNA鑑定など科学捜査の技術も進んだ。
改正案では、最高刑が死刑にあたる殺人、強盗殺人などは時効を廃止し、それ以外の人を死なせた罪についても、時効期間をおおむねこれまでの2倍に延長すると定めた。
殺人などの時効は2004年に15年から25年に延長されたばかりだ。再び法改正に動く背景には、被害者側の強い意向がある。昨年末の内閣府世論調査では、「25年の時効は長すぎる」との回答が10%、「短すぎる」は55%に上った。そんな国民の意識も後押しした。
今回は時効が進行中の事件にもさかのぼって新しい規定の適用を求めている。04年の改正と異なる点だ。改正法の施行時期によっては、東京・世田谷の一家4人殺害(00年12月、現在の時効は15年)など、記憶に残る凶悪犯罪の時効が廃止される。
憲法は、実行した時点で罪に問われない行為をさかのぼって罰することを禁じている。この規定と反しないか、専門家の意見も分かれた。結論は妥当と考えるが、改正にあたっては丁寧な説明が必要だろう。
時効廃止で、未解決事件が増え捜査に過度に負担がかかったり冤罪(えんざい)の危険が増したりする、との見方がある。そうした意見も踏まえ、改めて厳正で効率的な捜査のあり方を考えてほしい。