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天声人語

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2010年2月14日(日)付

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 自慢話にならない限り、長老の人生論は聴くに値する。どんな人生であれ、一つをほぼやり遂げた事実が言葉に重みを与える。80近くまで生きた江戸時代の俳人滝瓢水(ひょうすい)も、教訓めいた句を多く残した▼〈浜までは海女も蓑着る時雨かな〉は、いよいよとなるまでは最善を心がけよ、といった意味らしい。評論家の外山(とやま)滋比古(しげひこ)さんが、近著『マイナスのプラス』(講談社)でこの句を引いて、「どうせ」の思考にクギを刺している▼「最後の最後まで、生きるために力をつくすのが美しい……浜まで身を大切にする人は、海に入ってからもいい働きをする」。86歳の外山さんは、「どうせ××だから」との判断は人生を小さくすると戒め、逆境や失敗を糧にする生き方にエールを送る。マイナス先行の勧めである▼相通じる発言を本紙で目にした。「こうでなければ幸せになれない、という思い込みは捨てるべきです」。『不幸な国の幸福論』(集英社新書)を書いた作家の加賀乙彦(おとひこ)さんだ▼日本人は他の目を気にし、世間のいう「幸福行き」のレールを外れまいとする。勢い、個は育たず、子どもは考える力を奪われるとの見方だ。精神科医でもある80歳が求めるのは、幸福の形を決めつけないしなやかな精神。そして、挫折も幸せの要件だと説く。年長の識者2人が、期せずして同じ助言に達したのが面白い▼バンクーバーからの映像には、準備を尽くして「浜」に立つ選手たちがいる。冬季五輪の開会式に目を奪われながら、彼らを待つ栄光と、その何倍もの挫折に思いをはせた。

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