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高齢者の「拘束」―病院も禁止を大原則に

 他人の身体をしばり、自由を奪う。通常してはいけないことを、病院では例外的にすることがある。患者のために、本人の自由を制限してでも安静にさせて治療しないといけない場合だ。

 考えさせられる最高裁判決が先月あった。愛知県一宮市の病院に2003年、腰痛のため入院していた当時80歳の女性が、両手をベッドにくくりつけられ不要な拘束で苦痛を受けた、と病院を訴えた裁判だ。

 女性は、徘徊(はいかい)したり、意味の通らないことを言ったりする「せん妄」があった。この夜も何度も看護師を呼び、車いすに乗って詰め所に来て、ぬれていないオムツの交換を求めた。

 この日の夜の状況だけみれば、判決が、女性を約2時間縛ったのは必要最小限度の措置だったとしたのは、やむを得ないようにも思われる。

 だが、女性が入院中に受けた処置をみると疑問がわく。たとえば、自力でトイレに行けるのにオムツをつけているストレスが、「せん妄」を悪化させたのではないか。看護や薬の使用は適切だったのか。

 一昨年の名古屋高裁判決は、こうした事情を精査して、拘束の緊急性はなかったと認定。病院でも同意を得ない拘束は原則違法と明示した。

 上告を受けた最高裁判決はこうした原則論は述べず、拘束は「やむを得ない事情がある場合にのみ許容されるべき」と触れただけだった。

 女性側も病院も、例外として拘束を認める場合の基準や考え方を示すよう求めていたのに、肩すかしだった。

 高齢者の増加につれて入院者も多くなる。きちんと必要性をはからぬまま、高齢者を安易に拘束する病院が増えるようなことはあってはならない。

 高齢者が療養する介護施設については11年前、当時の厚生省令で拘束が原則禁止された。例外は、ほかに方法がない、命や身体に危険が迫っている、一時的な措置という場合などと規定した。その判断は担当者のみで行わず、事前に基準を定めて利用者や家族に説明し、実施時にも家族らに説明しなければならない。記録も残す。

 精神科病院では、拘束や隔離に必要な手続きが法令で定められている。

 高齢者を多く受け入れる病院100余りでの実態を、病院の団体が一昨年にアンケートしたところ、入院患者の1割を拘束していた。ほかの多くの病院についての実態は不明だ。

 病院での拘束問題について、新たな立法措置が必要なのかどうか検討しつつ、まず政府が動く必要がある。高裁判決のように「拘束は原則禁止」を基本とし、それを前提に、例外として許される範囲や実際的な手順を早急に詰めてほしい。そのうえで、できるだけ縛らず世話できる態勢やスタッフの充実を図ることだ。

アフガン支援―日本にできる事がある

 アフガニスタンは瀬戸際にある。

 カルザイ大統領は2期目に入ったものの、復興を主導するどころか治安の悪化を止められない。危うい情勢がこれ以上続けば、隣国パキスタンをはじめとする地域全体のさらなる不安定化にもつながりかねない。テロの脅威のみならず、世界にとっていよいよ深刻な問題なのだ。

 局面の打開を図るための国際会議がロンドンで1月末に開かれ、日本を含む70以上の国や機関の代表が参加した。そこで反政府武装勢力タリバーンの元兵士の社会復帰を促す基金の創設が決まった。5年以内を目標に、治安権限を外国軍からアフガンの国軍と警察に移す方針も打ち出された。

 タリバーンの攻勢の激化で昨年1年間に死亡した米軍兵士数は前年から倍増、これまでで最悪だ。3万人の増派を進める米軍は先週末、アフガン軍と連携し、タリバーンの拠点である南部で大規模な掃討作戦を始めた。

 軍を派遣する米国やNATO諸国にとって泥沼からの脱出をめざす戦略だ。だが、軍事作戦だけで情勢の好転を期待できないのは明らかだ。

 並行して民生支援の拡大が必要だ。一時金の支給や職業訓練を見返りにタリバーンの元兵士に投降を促す。タリバーン勢力伸長の土壌となっている貧困問題を軽減する。こうしたことを通じて社会が安定を増し、国内融和が進む素地も生まれるだろう。

 タリバーン元兵士の社会復帰について日本は、英国とともに基金の創設を主導し、最大規模の5千万ドルを出資する。インド洋での給油活動に代えて鳩山政権が総額50億ドルの支援を打ち出してから初めての具体的な対応策だ。国際社会の評価は高い。

 ただ、これで十分とはいえない。

 カルザイ政権が試みている穏健派タリバーンとの和解でも日本は調停役を担えるはずだ。軍事介入のらち外にあったので当事者たちを説得しやすい。かつて日本が軍閥の武装解除を成功させたのも中立的な立場が支えだった。

 また、政権内のひどい腐敗もなんとかしなければならない。国連によると、年間25億ドルが汚職で無駄遣いされているという。これが改善されなくては支援の実は上がるわけがない。

 であれば、会議で設置が決まった外国専門家らが汚職・腐敗対策の監視にあたる機関へ、日本からも要員を派遣してはどうか。また、インドネシアなどと検討している警察官の育成や訓練の計画も進めるべきだろう。

 腐敗対策でも国内融和でもカルザイ政権に過剰な期待は禁物だ。とはいえ、手をこまぬいているわけにもいかない。春には新たな支援会議がカブールで開かれる。日本政府には、会議を主導する意気込みで支援策の具体化を急いでほしい。

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