HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17841 Content-Type: text/html ETag: "1f015-45b1-af2c8000" Cache-Control: max-age=5 Expires: Fri, 12 Feb 2010 21:21:11 GMT Date: Fri, 12 Feb 2010 21:21:06 GMT Connection: close
アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
ロッキード事件が発覚した当初、自民党の中曽根康弘幹事長から「もみ消し要請」があったとする米側の公文書が見つかった。内容もさることながら、表記が興味深い。言葉をめぐる日米関係の一端を見る思いがする▼文書を読むと、もみ消す意味の「HUSH UP」に続けて(MOMIKESU)と日本語のローマ字表記を残している。この「もみ消す」は政治的陰影に満ちた要請のキーワードだ。単純に「HUSH UP」に置き換えていいものか。訳した米側担当者は悩んだのに違いない▼戦争末期にポツダム宣言を「黙殺」するとした日本の回答を思い出す。徹底抗戦派を抱えつつ終戦を模索していた政府には、ぎりぎりの表現だったという。これが相手方には「無視」「拒絶」の意味に英訳されて伝わったとされる▼広島と長崎の惨事はそれから間もなくだった。『ベルリッツの世界言葉百科』には「この一語の英訳が違っていたら原爆投下はなかったかもしれない」とあるそうだ。鳥飼玖美子さんの『歴史をかえた誤訳』に経緯が詳しく書かれている▼日米繊維交渉の佐藤・ニクソン会談では、「善処する」が「最善を尽くす」と通訳された。だが佐藤首相は、「善処する」の日本的な意味どおり何もしなかった。腹芸的な言葉がまっすぐに訳されて、日米関係はこじれていった▼そしていま、鳩山首相の「トラスト・ミー」である。政治的陰影をかなぐり捨てた直球を、もみ消す術(すべ)はないようだ。一つの言葉がときに背負う重みを、冒頭の文書から思い巡らせてみた。