イランがウランの濃縮度を高める作業に着手した。技術力はまだ低いが、やがて核兵器に使える高濃縮ウランを製造する恐れもある。新たな核保有国を生まないよう、国際社会の結束が必要だ。
イランはこれまで濃縮度3・5%のウランを製造してきたが、今後ナタンズの核施設で20%に高める。医療用アイソトープに使うのが目的で、国際原子力機関(IAEA)査察官も立ち会うという。
だが将来、濃縮度を90%以上に高める技術を持てば核兵器の開発も可能になる。オバマ米大統領は濃縮活動をやめなければ「次に取る措置は制裁だ。数週間内に枠組みを作る」と警告した。イスラムとの対話を掲げたオバマ政権が、圧力へとかじを切ったことになる。
ウラン濃縮をめぐっては昨年秋に一時、妥結の兆しもあった。
イランが保有する低濃縮ウランを国外に搬出し、ロシアやフランスが濃縮度を高め燃料化して再び国内に戻す−。国連安保理の五常任理事国とドイツが構想を提示した。備蓄する濃縮ウランを減らし軍事転用を防ぐ狙いだったが、合意できなかった。
核拡散防止条約(NPT)に加盟し、原子力発電など核の平和利用の権利があると主張する。
この建前の一方で、イランは米国とは三十年間対立し、核戦力を持つとされるイスラエルとの緊張もある。イスラム共和制を脅かす勢力に対する抑止力として、核開発を進める狙いは隠せない。
イランは国連安保理で三度の制裁決議を受けている。核開発能力を高める今回の行為は、孤立をさらに深める危うい賭けといわざるを得ない。
米国は安保理に新たな制裁案を提示する準備に入った。ロシアは制裁に同調する可能性があるが、中国は外交による解決を主張している。いま米中は台湾への武器輸出などをめぐって対立し、イラン制裁での協調は難しそうだ。
一方で、イラン政権内部で強硬策か、対話かという意見対立があるとの観測もある。外務省高官は「まだ対話の窓は開いている」と述べ、ウランの国外搬出について修正案があれば、再度協議に応じてもよいと表明した。
イランの瀬戸際戦術を見極める必要がある。核問題は長丁場になりそうだ。制裁という圧力を視野に入れながらも、交渉に引き出す外交努力も続けたい。
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