かつて江戸の郊外は野鳥の宝庫だった。ちょっと想像しにくいが、コウノトリやトキ、ツルなどの大型の鳥たちがたくさんいた。東京・亀戸の公園に、当時のこの地域の風景を描いた絵がある。トキが水田でエサをついばみ、空を舞うのどかな田園光景が描かれている▼昔の亀戸は見渡す限りアシ原が続く低湿地だった。湿地に亀の形をした島があり、井戸水が出たため「亀井戸」と呼ばれるようになったらしい。水鳥たちの楽園だったのだろう▼トキは江戸の新田開発により生息環境が広がり、各地の大名による保護政策で急増した。ドジョウやカエルなどをエサにするため、田植え後の苗を踏み荒らす「害鳥」と農民からは嫌われていたという(唐沢孝一著『江戸東京の自然を歩く』)▼美しい羽から、日本書紀には「桃花鳥」の名で登場するトキは明治以降、乱獲や水田環境の破壊で激減。一九五二年に特別天然記念物になるが、二〇〇三年に絶滅してしまった▼最近、新潟県佐渡市で放鳥されたトキの雄と雌がペアで行動しているのが確認された。雄はくちばしで木の枝を雌に渡そうとするなどロマンチックな求愛のそぶりを見せている▼身近な鳥を絶滅させた罪深さを思う時、野生復帰という未知の試みが成功し、人工繁殖した「かごの鳥」から生まれた二世たちが、山里に舞い降りることを願わずにいられない。