1950年代から70年代にかけ住友銀行(現三井住友銀行)の頭取、会長を務めた堀田庄三さんは、晩年の楽しみのひとつが水彩画だった。「葉を緑でなく、青で描く。感じたまま大胆に」。取締役を退いた後の85年に、こういっていた。
▼堀田さんはその2年前まで日本航空の会長職にあった。自分の色を出せなかった心残りが、絵の大胆な色使いに表れたのかもしれない。会長のとき羽田沖の墜落事故が起き、社内は処理に追われた。当時、日航会長は経済界の名誉職。とはいえ競争や収益重視の堀田流があまり浸透しなかったのは残念だったろう。
▼日本航空は87年の完全民営化後も、政治家が経営に影響力を持つといわれている。労働組合が8つあり、労使関係も複雑だ。外部から就任した歴代の会長には、悩ましい問題が多かった。今月、日航会長に就いた京セラ名誉会長の稲盛和夫さんには、そうした壁を乗り越え、「自分の色」を存分に発揮してほしい。
▼提携先選びで稲盛さんは世界最大手のデルタ航空に乗り換えず、これまで通りアメリカン航空にした。過去の関係を簡単に切れば信義にもとり、発券システムの変更など効率も悪いからという。吉と出るかは別にし、商道徳や堅実さを重んじる稲盛さんらしい。日航の再建は企業家の発想を吹き込むことが先決だ。