ウクライナの新しい大統領に選出されたヤヌコビッチ前首相には、バランスのとれた国のかじ取りを求めたい。ウクライナは欧州とロシアを結ぶ要衝に位置する地域大国だ。国情安定は欠かせない。
十八人が乱立した第一回投票を勝ち抜き、七日の決選投票に駒を進めたのは、親ロシア派のヤヌコビッチ氏と親欧米派のティモシェンコ首相だった。
二〇〇四年の前回選挙で、「オレンジ革命」といわれた民主化運動に乗って当選した現職のユーシェンコ大統領は、得票率約5%と惨敗した。ここにウクライナの窮状と有権者が望んだ選択が見て取れる。
親欧米路線を進んだユーシェンコ政権は、天然ガスを依存するロシアと対立、エネルギー危機を招いた。
加えて、〇八年秋の世界金融危機は脆弱(ぜいじゃく)なウクライナ経済を直撃、債務不履行(デフォルト)の可能性もささやかれ、国際通貨基金(IMF)が支援に乗り出した。そんな事態を尻目に、あろうことか大統領と首相、それに議会は政争に明け暮れた。
エネルギー、経済、政治の三大危機脱却の期待を背に、ヤヌコビッチ氏は選ばれた。そのためには、経済的にも結びつきの強いロシアとの関係修復は不可欠、という民意の表れだ。
冷戦時代、東側陣営に組み込まれた東欧はじめバルト三国やウクライナなどの旧ソ連各国は、地理的にも政治的にも西欧とロシアに挟まれ、「サンドイッチ国家」とも呼ばれる。
これらの国ではソ連圧政の悪夢は消えず、ロシアへの恐怖や不信はぬぐえない。冷戦終結から二十年たった今も、東西を分かつ壁は残っている。
とりわけロシアと地続きの旧ソ連各国にとって、ロシアとの距離をどうとるかは、重い課題だ。グルジアは一昨年、親欧米路線を突っ走った揚げ句、ロシアと軍事衝突まで起こした。
ウクライナはロシア系住民の多い東部と、欧州志向の強い西部という国内事情も抱える。東部が地盤のヤヌコビッチ氏も、バランス感覚を欠けば国家分裂の危機を招きかねない。選挙結果が予想以上の接戦だっただけに、慎重な手綱さばきがなおさら必要だ。
ヤヌコビッチ氏にはもう一点、注文がある。色あせたオレンジ革命だが、言論の自由など民主化が前進したことは貴重な成果だ。この遺産を後退させては困る。
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