孟子に<似て非なり>という言葉がある。慎重と臆病(おくびょう)、倹約とケチなどが思い浮かぶ。「不具合」と「欠陥」も似ているが、こちらは企業のブランドイメージを左右するデリケートな違いのようだ▼トヨタ自動車は米国や国内でブレーキの不具合情報が相次いでいる新型の「プリウス」全車両のリコール(無料の回収・修理)の実施を決めた。法律の基準を満たしていると主張してきたが「欠陥」と認めなければ、顧客の信頼を取り戻せないと判断したのだろう▼プリウスは温室効果ガスの排出量が少なく、燃費が良いエコカーの代表選手。昨年五月に新型が発売され、抑えた価格や減税を追い風に、旧型も含め国内で前年比約二・九倍の年間約二十一万台を売った▼ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車で初めて売り上げトップになった“新看板”の欠陥は、米国のアクセル不良問題をめぐるリコールとともに大きなブレーキになった▼内外のメディアの批判を受けて、先週末、記者会見に臨んだ豊田章男社長はプリウスのリコールの方針を明確にしなかった。後手に回った対応は危機管理の鈍さを世界に印象付けてしまった▼プリウスはラテン語で、「〜に先立って」の意味だ。地球環境を守る先駆けになるという開発者たちの崇高な決意も、経営陣が顧客の不安を軽視するなら輝きを失ってしまう。