旧ソ連のウクライナ大統領選挙の決選投票で、ロシアとの関係強化を唱えるヤヌコビッチ前首相の当選が確実になった。
「オレンジ革命」と呼ばれる2004年末の民主革命を経て、ウクライナが親欧米路線に大きくかじを切ってから5年あまり。欧州とロシアのはざまに位置し、地政学的にも重要な地域だけに、再びロシア寄りに急旋回しそうなウクライナの行方は気掛かりである。
今回の大統領選で浮き彫りになったのは、民主革命に対する国民の幻滅と、欧米への失望感だ。革命の立役者だったユーシェンコ大統領は第1回投票で早々と姿を消した。同氏とともに革命を主導したティモシェンコ首相は、決選投票に残ったものの、選挙戦では対ロ関係の改善を訴えざるを得なかった。
欧州との統合を望んだユーシェンコ政権は、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)への早期加盟を優先課題に掲げ、ロシアの影響力排除を目指した。しかしロシアは、ウクライナ経済の生命線である天然ガスの供給価格引き上げや一時的な供給停止などで対抗した。
さらに世界金融危機と同時不況が追い打ちをかけた。欧米の金融機関は資金を一斉に引き揚げ、ウクライナは国際通貨基金(IMF)に緊急融資を仰ぐ事態に陥った。昨年の実質経済成長率はマイナス15%近くまで落ち込んだ。欧米の支援体制が不十分だった非は否めないだろう。
ヤヌコビッチ氏は「やはりロシア抜きでは生活できない」との国民感情を追い風にしたといえる。同氏はNATO加盟方針の撤回、ロシア語の公用語化などを公約している。
ロシアは当然ながら、ウクライナの政権交代を歓迎している。ロシアが今後、ウクライナのみならず、カザフスタンやモンゴルといった地政学的に重要な近隣国への影響力を強めていくことは十分予想される。
ソ連崩壊や金融危機で大きな痛手を被ったとはいえ、豊富なエネルギー資源を武器にしたロシアの覇権主義が地域の均衡を崩し、不安定要因となる懸念は否定できない。欧米のみならず日本も、ロシアの覇権主義的な外交姿勢を注視し、けん制していく必要があるだろう。