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ノーベル賞を受けた英国の劇作家バーナード・ショーは、嘘(うそ)か誠か、こんな逸話を残す。パーティーの席上、とある女優に「私と結婚しませんこと」とささやかれたそうだ▼「私の容姿とあなたの頭脳を持った子が生まれたら素晴らしい」と。だがショーは「やめておきましょう」と断る。「僕の容姿とあなたの頭脳を持つ子だったらかわいそうだ」。ブラックジョークめくが、皮肉屋の本領発揮である▼さて、この結婚がどんな果実を生むか、期待した人は少なくなかっただろう。キリンとサントリーである。財界人も飲んべえも、それぞれの立場で注目した縁談だったが、破談になった。相整えば世界5位の食品企業が誕生するはずだった▼昨夏に「交際」が発覚した。だが多難とも噂(うわさ)されていた。社風も違う。浪速で生まれ、「やってみなはれ」精神のサントリーに対し、旧財閥系のキリンは重厚で手堅い。例えるなら草書と楷書(かいしょ)か。異質が溶けあい、墨痕も鮮やかに大書される旗印が、掲げられる日はもうない▼双方のファンには、持ち味の減殺を案じる声もあった。知人の飲み助は、落語の古今亭志ん生と桂文楽を引き合いにした。融通無碍(ゆうずうむげ)な志ん生。端正な文楽。昭和の名人の芸風を双方の社風に例え、「“古今亭文楽”など聞きたくはない」と赤い顔で力んでいた▼破談発表の夜、紅灯の巷(ちまた)はその話題に花が咲いたそうだ。経済論、文化論、カイシャ論……結婚論もあったかも知れない。一夜の酒のサカナとなって左党のサービスにこれ努め、冬の空にはかなく消えた。