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横浜事件 司法がやっと過ちを正した(2月9日付・読売社説)

 裁判所がようやく、自らの過ちに向き合ったということだろう。

 戦時下最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」で、横浜地裁は、元被告5人の遺族が求めていた刑事補償を認める決定をした。

 横浜事件は、1942年から45年にかけて起きた。雑誌に掲載された学者の論文が共産主義の宣伝にあたるなどとして、神奈川県警特別高等課(特高)が編集者ら約60人を治安維持法違反の容疑で逮捕し、約30人が起訴された。

 特高は、激しい拷問によって虚偽の自白を強要した。終戦直後、元被告5人は全員、虚偽自白をもとに有罪とされた。

 地裁の決定で注目されるのは、「当時の警察、検察、裁判各機関の故意・過失は重大だ」と述べていることである。特に、「拙速、粗雑と言われてもやむを得ない」と裁判官の過失も認めた点だ。

 この事件では、記録がほとんどなく、第3次、4次請求でやっと開始することになった再審公判では、裁判打ち切りを意味する「免訴」となった。

 新旧刑事訴訟法では、刑の廃止や大赦が行われた時には免訴とする規定がある。免訴理由があれば実質的な審理はできず、無罪・有罪を判断できないという判例もある。それが理由だった。

 不当な言論弾圧に、元被告側が明確な無罪宣告を求めた心情は十分理解できる。だが、法律などの規定で再審判決が免訴としたことは、致し方のない結論だった。

 今回の決定は被告側の立場を踏まえ、「再審公判で実質的な判断が可能なら、無罪を受けたであろうことは明らか」とも述べた。

 刑事補償は、無罪になった人や無罪に相当する十分な理由がありながら免訴になった人、その遺族が請求できる。通常の裁判と違って相手方はいないため、請求者側が決定に不服なら即時抗告できるが、確定する見通しだ。

 戦時中と今日では状況が異なるが、再審公判中の足利事件などのように、今も冤罪(えんざい)は絶えない。捜査官の誘導や威圧的な取り調べ、それに基づく虚偽の自白を裁判所が見抜けないケースもある。

 司法も過ちがあれば、謙虚に正していく姿勢こそ、信頼の向上につながるのではないか。

 有罪判決から65年がたち、無罪宣告を待ち望んだ元被告本人は、いずれも死亡している。結論に至る長い歳月は、事件の教訓を風化させかねない。迅速な審理も、司法に課せられた重要な役割であることを忘れてはなるまい。

2010年2月9日01時17分  読売新聞)
東京本社発行の最終版から掲載しています。
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