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踏鞴と書いて「たたら」と読む。昔、足で踏んで溶鉱炉などに空気を送る送風機のことを言った。転じて「たたらを踏む」は空足(からあし)を踏むこと。段差のある場所で見当を誤り、よろけた経験は誰にもあるだろう▼車のブレーキを踏んでも利かない感覚は、「たたらを踏む」のに近いだろうか。1秒前後の利きの遅れとはいえ、違和感に運転者があわてれば、事故につながりかねない。あると思って踏んだ地面がなかった。大仰だが、ブレーキが利かないとはそんな印象である▼人気車種プリウスのブレーキの問題で、トヨタがとうとう国交省にリコールを届け出るという。全車の無償修理であり、欠陥を認めることでもある。発覚以来、不具合ではなく「運転感覚の問題」で片付けようとする姿勢に批判が高まっていた▼ひと月ほど前の小欄で、プリウスの成功を「一流の技術陣がアクセルを踏み込んだ時の馬力を思う」と書いた。組織にも「心技体」がある。技は一流でも、心や体が覚束(おぼつか)なければ信頼はついえてしまう▼「不良品にはならなくても、『こんなものを納品したら会社の恥だ』と妥協しない人と、『まあいいや』と見逃す人とでは、ネジの出来がまるで違う。ネジが積まれた山をひと目見たら美しさが違うんですわ」。作家の小関智弘さんの『現場で生まれた100のことば』に見つけた、あるネジ職人の心意気だ▼見事な「ものづくり魂」に比べ、不良品にあらずと言いつのるトヨタは小さく見える。守るものは体面ではなく、お家芸の「品質と安全」であってほしい。