太平洋戦争の後、南米やハワイの日系人社会で日本が米国に勝ったと信じていた人が数多くいた。「勝ち組」は敗戦のニュースをデマと決めつけ、敗戦を受け入れた「負け組」との間で激しく対立、死者が出る抗争まで起きた▼情報の乏しい時代、祖国の敗北を信じたくない心理も働いたのだろう。報道は多くても、「勝者」がはっきりしないのが、民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件だ▼政治資金収支報告書への虚偽記入の動機が、ゼネコン資金を隠すための「洗浄」であると立証できるかが捜査の焦点だった。検察は現職国会議員を国会開会直前に逮捕しながら、小沢氏の反論を突き崩す立証はできなかった▼東京地検の佐久間達哉特捜部長は記者会見で、「土地購入の原資の隠蔽(いんぺい)を図った犯罪」と明言したが、原資に関しては口をつぐんだ。これでは国民の理解は得られない▼小沢氏の説明も疑念を増すばかりだ。土地購入費四億円の出所は政治献金→融資→個人の資金と変転した。政治団体が多数の不動産を保有していること自体、異様に映る▼小沢氏が不起訴になったことで、民主党内は幹事長続投を支持する声が多いが、小沢氏が検察との権力闘争の「勝者」と考えるなら違う。幹事長を辞めるべきだ、という意見が圧倒的多数を占めている世論とのずれはあまりにも大きい。