HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17832 Content-Type: text/html ETag: "57c469-45a8-9614b440" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 06 Feb 2010 23:21:11 GMT Date: Sat, 06 Feb 2010 23:21:06 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年2月7日(日)付

印刷

 本欄へのご感想の中には、ただ黙するしかないようなものがある。埋葬地に木を植える「樹木葬」を取り上げた過日の小文にも、そのようなお便りをいただいた▼「いつ折れるとも知れない心を老夫婦で支え合いながら、娘のために樹木葬の適地を探しています」。次女を34歳で亡くしたばかりのご夫婦からだった。乳がんの告知からわずか1年半。夫と、告知の直後に生まれた男児が残された▼遺言めいたメモには、病のため震える字で家族葬の希望と、お墓にはオリーブかローズマリーを植えてほしいとあったそうだ。若い人ほど木の勢いは強かろうと書いた小欄を、励ましと受け止めていただいた。偶然に言葉もない。ご連絡すると、お二人は乳がん撲滅への願いを静かに語られた▼同じ34歳で逝った女性を悼む歌がある。小学生の姉妹の親でもあった。〈遺児ふたり長き髪もつ明日よりは母に代わりて誰が結ばむ〉羽場百合子。作者は朝日歌壇にも入選を重ねた元教師で、弱き者を思いやる歌風が際立つ▼どんな死も悲しいけれど、若い母親のそれは切ない。お母さんは風になり木になって、わが子に声援を送り続ける。他の母親より少し短い、真珠のような思い出を抱きしめながら▼乳がんに侵された先の女性は、幼子にも走り書きを残していた。〈男の子はやさしくなければいけません。まわりの人の言うことをよくきいて。いっぱいおでかけにつれていってもらうんだよ。本もいっぱいよんで、音楽もいっぱいきいて……〉。連なる「いっぱい」に、母性の叫びを聴く。

PR情報