昨年も自ら命を絶つ人が多く、十二年連続で三万人を超えた。政府は自殺対策緊急プランを定めたが、取り組む内容はこれまでとあまり変わらない。非常事態と認識するなら本腰を入れるときだ。
警察庁によると、二〇〇九年の自殺者は全国で三万二千七百五十三人(暫定値)と統計を取り始めた一九七八年以降で五番目に多かった。年間の自殺者数は九八年に急増して以来、三万人を超えたまま推移している。
一方、交通事故で死亡した人は昨年、五千人を割り込んだ。シートベルト着用が浸透し、車の安全性向上という要因が挙げられる。減り続ける交通事故死者に対し、自殺者はいまや、その六倍だ。これは非常事態と言えよう。
自殺者を男女別でみると、男性が七割以上を占めた。事業が行き詰まったり、雇用を打ち切られ、経済的に追い詰められた末に自殺した男性が多いのではないか。
景気悪化が自殺者増に影響しており、国や自治体は失業者支援を今後も続けなくてはならない。
政府の緊急プランには求職者支援や債務返済などについて相談対応の強化といった文言が並ぶ。
各省庁が相談強化を進めるのは当然だが、自殺防止の網を張り巡らすには、縦割り行政の壁を取り除きたい。行政担当者は横の連絡を取り、警察との連携も要る。
プランには相談強化のほかに啓発活動や統計データ解析がある。これらの対策だけで、どこまで自殺が防止できるのか疑問だ。
二〇一〇年度予算案で内閣府の自殺対策費は一億円に満たない。「大変憂慮すべき状況」と指摘しながら、お寒い額ではないか。
鉄道自殺は増加傾向にあり、ホームドアや転落防止さくの設置を急ぎ進めるべきだ。青色発光ダイオード(LED)照明をホームに設ける鉄道会社も出てきた。効果があるなら広めていきたい。
「自殺の名所」とされる福井県坂井市の景勝地・東尋坊で自殺防止活動をしている団体と電気工事会社が協力し「自殺防止装置」を開発した。人が近づくと赤外線カメラが感知し「どうなされましたか」と女性の声が流れる仕組みだ。
具体策を講じている企業や団体がある。国はそんな取り組みには優先的に財政支援してほしい。
自殺対策は、鳩山首相が施政方針で訴えた「いのちを守る」政策の最たるものだ。地域や民間団体の活動へのサポートは「新しい公共」にも通じるのではないか。
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