全国の高速道路三十七路線五十区間の実験的無料化で影響はプラス、マイナスとも、ある程度明らかになろう。しかし、高速道路の建設・管理を総合的に考え直すのが根本的な課題ではないか。
民主党の政権公約の中で高速道路料金の原則無料化が、強く疑問視されたのは周知の通りである。しかし前原誠司国土交通相は、供用中の高速道路の約18%を六月をめどに、社会実験として無料にすると発表した。
無料化への疑問は、高速利用のマイカーが増え公共交通機関がさらに衰退しないか、車自体も一般道路より高速へ集中し渋滞が悪化したり、二酸化炭素(CO2)の排出が増えないか−などだ。
実験では当然、これらの疑問に答える一定のデータを得たり、物流コストの変動や観光客の増加など、プラスの影響も明らかにすることを狙うだろう。
しかし選ばれた路線・区間からは、東名、名神など三大都市圏と直結し渋滞悪化が懸念される路線や、フェリーなど公共交通への影響が大きいと指摘された本州四国連絡道路などは、もともと除外されている。
対象の新湘南バイパスや箱根新道(いずれも神奈川県)、静岡県の西富士道路は、観光客誘致の有力な武器になると地元が期待しているが、このような例は乏しい。逆に一般国道が並行する紀勢自動車道(三重県)のように、無料化はまだ通行車両が少ない地方の路線に集中している。
民主党は、二〇一二年度に向けて段階的に高速無料化実施の方針だ。だが交通量の少ない地方路線を対象にした実験で、他の路線にも有効な渋滞の多発、公共交通機関への影響などのデータが得られるだろうか。
さらに一定のデータは得られるにしても、もし無料化の路線・区間を増やせば、年々投入される国費は増える一方になる。
最後は、通行料金を原資にして高速道路を建設・維持管理してきた従来の仕組みをどうするか、決断を迫られる。受益者負担の原則を放棄し、建設・維持管理を全額国費、せんじ詰めれば国民の税金で賄うのか。
一部の無料化と同時に、無料化しない路線を対象に車種別に上限料金を設定する新しい料金制度の検討も進んでいる。つまみ食いのような無料化を進める前に、高速道路の建設・管理とその負担のあり方、料金システムを抜本的に見直し国民に示すのが先決だ。
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